星喰(hosikui)

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配布開始

 無事に配布することが出来ましたので久しぶりにほんの少しだけ書こうかなと思います。とはいっても大体の経緯はゲーム本編内の後書に書いてありますので補足的なものにしかなりませんが… 。まず初めに今回は息抜きで作った作品となります。結果息抜き程度で収まらなかったんですがまあそれは横にさくっと置いておきましょう。今作は色々な素材提供者様のお力をお借りして軽く半年以上掛かりながらも完成しました。(最初は息抜き代わりにやってたので他作品のスプリクトと並行しながらですが)初めは軽い短編(長くても一時間)で終われそうな、なんじゃこりゃ的なものを書いてみたかったんですね。シリアスとか???みたいなものを書くのは好きなんですけど、その道ばかり歩き続けても逆に疲れちゃうのでもう片方の道を用意。それがこの話です。後書に書いてあるのと少し言い回しが違うと思いますが大体似た感じなんでこの辺は許してくださいね。まあ色々と設定を追加して結局いつもと変わらない感じになりましたが…。それでもひとつ変わったのはある意味幸せな結末を用意出来たことでしょうか。※中には人から見て口を押さえたくなるような結末もあれば、意味不明な結末も出てきます。今までの作品がそんな結末ばかり迎えてたので、今までhorrorfantasyの作品をプレイしていただいた方からしたら
「あれ、どうしたの?」と思われるかもしれません(笑)こんな(微糖ですが)結末を用意してくるなんてと。ただやっぱりhorrorfantasyを全然知らなかった方からすれば、男性を攻略出来るゲームにしては大して甘さが無いので不完全燃焼と言うか、もうちょっと…みたいなことを思われるかもしれませんね。 忘れないでください。本作はノベルゲーム(女性向け)です。乙女ゲームのジャンルにカテゴリ出来るようなものではないんです。(言い訳みたいですね、すみません) もう少し甘さ抱えて出直したいけれど、こんな微糖具合しか出せない私には無理かな…orz
と考えている今日この頃です。でも甘さが欲しい!という方もいれば逆に私が書く微糖さが良いと思われる方もひょっとしたらプレイされた方の中にはいらっしゃるかもしれないのでやっぱり微糖で居続けるのかもしれません。満足出来なかった方々、申し訳無いです…。ここを見ている方にカットのほうでも一度お伝えしたことをここに残しておきます。もしも話の流れを気にされる方がいらっしゃるのであれば一週目以降は恋√→おまけ√の順で進まれることをお勧めします。こちらも恋√→おまけ√の順で書き終えましたのでこの順で行けばネタバレも気にすることなくおまけ√にも入りやすくなるんじゃないかと思います。というわけで、既に本編内の後書で色々語ったのでここからは本編に入れられなかった編集の苦労を画像(ぼかしますが)でお伝えします。

零れ話。

  年末年始。このブログを開いた皆さんはどう過ごされたでしょうか。 私は………………………………………………………PCのあれやこれやエラーに巻き込まれつつなんとか生還している次第です。あまりこのことを多く書いても面白くないので書きたいことだけ書こうかなと。 この間、「ドライ」に引き続き、「噂」の掛け合いの動画をあげました。http://www.nicovideo.jp/watch/sm30299408いやあ。楽しい。本当に楽しかった。叫べた。ふふふ。こんな私にお相手をしてくれた悠紀人さんにも感謝ですよ本当。と、いうわけで前回に引き続きそんな「噂」のちょいとした小話でも。私にとって「噂」のイメージはもう……もう……

あのシーンですねめっちゃ叫んでいるあれ。なんかこう……じわじわと何かが迫ってきて、それがたまにビュン!と斜めに(変な方向に)襲ってくる。
命中するとすんごい酷い目に遭う的な、あの感じ。「これ当たると痛いよ!当たり前なんだけどさ!」そんな様を見せつけているあの感じがたまらなく好きです。分かり難くてすみません。私にも分からないんで仕方ないですね(ぉぃ前回と同様に募集をかけ、選考し、今回は特に迷うこともなく選べました。この方だあ!とは投稿を聴いてすぐに思っていたのですが、もしかしたら別の方の投稿もあるかもしれない。じとじと。
と待っていて結局そのまま締め切っちゃったパティーンです。個人的に落ち着いた声音が好きなのでもしかするとそういうので選んだのも
あると思うんですが、なんとなく荻上くんは少し高いくらいがいいなと考えていたので、演技面で落ち着いてて、声音が高い悠紀人さんの投稿を聴いた瞬間
頭の中で荻上くんと悠紀人さんの声が重なって、「わあお」と知らず声あげてました。いやはや恥ずかしい思い出(にするほど昔でもないですが)。まあそんなこんなで本当に個人的に選んだような気がします(ぉぃやっぱり自分が合ってるかどうかを判断する基準みたいな何かを募集のときに
書けばよかったのかもしれない、とこういうときに思うんですが……
投稿される方のそのキャラのイメージというのも個人的に知ってみたいんで結局こういう募集のときは毎回書いてないんですよね。お蔭で毎回色んな方の投稿音声はこちらとしても良い勉強になっています。ありがたや。話を戻しまして……今回はドライほど多くリテイクもなくスムーズに完成しました。悠紀人さんの指摘もありがたかったっす……もう本当お主は神かと思いました…。私、最初の音源で最後の荻上君からの問い返しの音声で訛っちゃったんですよね。昔っからそうなんですが私色んなものにめちゃくちゃ影響されやすい奴でして。※テレビ新聞漫画ゲーム以下略そういったものの言葉がそのまま出ちゃったり。似非的な何かも出ちゃったり。
それが普通じゃのうと思って育った身なので…結果、自分じゃあんまし気付けないという…。だから改めて聴き直してぞぞぞとしましたよ。なんじゃあこりゃあ自分、って。いや録り終えてからも確認したんですけど……気付けなかったとは……。うん。今後もう少し聴き直して気付けるように頑張ろう。いやその前に変に訛らないようにしよう(笑)

ばしばしっとした指摘がやってくるのかと思っていましたが思いの外すんなりいけたのでほっとしています。いやしちゃいけないとは思うんですけどね!まだまだ改善の余地有だと思いますし。編集は…………………………
まあ、うん元からそんな凝ったものが出来ないと自分でも分かってるんでこれは置いておいて(ぉぃ今回ちょっとアドリブ入れた部分があって、動画を見た方は分かると思うんですが
最初のなんともいえない背後のオーラ的なものを出すために
声だけで付け足したり、とか。最後の頭ぶつけるところ、とか。ぶっちゃけ最初のは効果音で付け足しても全然大丈夫なところなんでしょうけど
なんとなく声でつけたくなりました。このなんともいえないオーラを出したくてたまらなかったのです。最後のは、そういった台詞にない行動を表す的なものがあれば話の中で分かりやすく伝わるかなと思ってつけています。擬音って、あるじゃないですか。あまり効果音をつけすぎると次はこの音だろうなあって
なんとなく察してしまうんですけど、声で表現するとまた少し違ってくるんですよね。キャラの動きなんかもそれと同様で、息遣いとか。動き回ったりしたときの息切れだったり、落ち込んだときに出す吐息。色んな方の音声を聴いているとどれも違うんですよね。それを上手く状況と表情を考えつつ表現するのは難しいんですが、それを考えるのは結構自分好きなので、たまにそういった感じの考えされられるお題を見つけては勝手にああだこうだ頭の中で何パターンか考えてしまうんですよね。まあでもこれに関しては演技や声劇好きでやってる方なら誰でもやっちゃう部分なんじゃないかな、と勝手に自分では思っていますが。そんな感じで、アドリブで色々つけたしたりしたんですよ。はい、まとまってない! (苦笑)最初に話したあのシーン。
今回すっごい叫ぶ部分があるんですけど、なんと悠紀人さん私の音声に合わせてくださった。感激して目から何かが出そうになりました。もしかしたら昨日食べたそばかもしれません。と、まあ……今回は色々お世話になりっぱなしでした。
(前回もですが!)今はすごくラブいものがやりたいです。照れる話とか、告白するものとか。なので今年は一度でもいいから恋愛的なものをどなたかとやりたい。うん。一度でいいからそこで出来るだけたくさん照れを出してみたい。
あまりやらないからなあ……。出来たらいいなあ(遠い目)それからいつ日とGentleのノベルゲーを完成させたい。いつ日は夏、Gentleは冬までを目標に…それまでに何かトラブルに巻き込まれないよう天に祈っておきます……。平和でありますように。平和が一番だ。目先の目標はいつ日のページを更新させることだなあ……来月か再来月に出来たら……

鐘の話

Real_or_TreatのbadBadBAD‼で追加した鐘の話です。これは声劇や声の投稿、また物書きの設定等々自由に使って頂いて構いませんが、勿論自作発言はNGです。そして出来ればcredit等でどこかに
「horrorfantasy」もしくは「星喰(hoshikui)」と書いていただけたら嬉しいです。※強制ではありません。※またcococmmu内ではお題として出してますのでそちら投稿の際は全然書かなくても大丈夫です。 ※この話を使った際に起きた様々なことに関して作者は一切責任を負いません。作:星喰(hoshikui)昔々、一人の旅人が町を訪れていました。町を回っていると、住人は皆沈んだ表情をしていました。そんな中で歩いた街中もどこかどんよりと暗い色に染まっているかのように見えてきて…そんな寂れた町を目の当たりにした旅人は自分まで同調しそうになりました。けれどそれを振り払い、旅人は自らの得意とすることで町と住人に色彩と笑顔を取り戻そうとします。旅人が得意とすること―――それは音を作ることでした。旅人は静かな町の一角で、一音、響かせます。その音に反応した住人の一人が彼の元にやってくると、こう言いました。"それはどうやって鳴らしているんだい?"旅人は音の鳴り方を住人に教えると、もう一回音を響かせました。その音につられてまた一人、一人と住人がやってきては何度も音を鳴らしていきます。やがて一角の全てが住人で埋まるほどになってくると、旅人は住人一人一人に別の音が鳴る道具を渡し、一斉に町に響かせようと提案しました。そして旅人が合図をすると――皆の片手に持った道具達が一斉に町中に響き渡ります。雲も突き抜けるような暖かいその音は、住人の心に光を灯し、町に彩りを与えてくれました。 住人たちが賑わい、その心に光が宿ったことを旅人が嬉しく思っているとその中の一人が旅人の元へやってきてこう言いました。 "旅人さん。この町を、私達の心をいつも照らしてくれるようなこんなにも暖かい音をずっと響かせることは出来ないでしょうか?" "貴方は町から町へ歩いていく旅の方。ですがこんな奇跡をもたらしてくれた貴方がここからいなくなってしまっては私達の心もこの町もまた元通りに寂れてしまう" 
"どうかお願いです。お望みとあれば、金も、食糧も、この身も捧げます。この町をずっと明るく照らし続けられる、暖かなその音を私達にいただけないでしょうか"旅人はこの町に来るとき、一週間くらい滞在したらまた別の町に行こうと考えていました。けれどこうして住人達の必死の訴えを前にすると、出ていく前に何かをこの人たちに残したいと旅人は強く思いました。旅人は、住人達の願いにこう答えます。"ああ、分かったよ。けれど一つだけお願いがある"
 "これから僕が作る音は、君たちと同じ、寿命のある音だ""だから、もしも音が途切れてしまったその時は、何もしないで、その音が幸せな眠りにつけるように君たちが見守っていてほしい""君たちは"ずっと"と願っているようだけれど…いずれ、僕にも音にも終わりは絶対にくる""でも忘れないでほしい。僕に音が作れるように、君たちにも音は作れる""光をもっと増やすことだってできるんだ""だから……どうか僕の作った音が消えてしまっても、また新たな音を君たちが作って""そうして僕の音以外でも君たちが光が溢れる町にしてくれるのなら、僕は君たちの願いを叶えたいと思う"そんな旅人の言葉に、一人の子供が弱々しくこう呟きました。"出来るのかな……私なんかにも、作れるのかな……"その言葉に旅人は別の言葉で問い返します。"君は、砂遊びが好きかい?""?""どんどん崩れていく砂を見て、新しく作ることを面倒くさく思ったりするかい?""…崩れちゃったら、もう元には戻せないから………""どうして? 確かに元には戻せないけれど、新しいものは生み出せるじゃないか""人は、頑張り続けても、作り続けても、失敗がいくらでもつくものだ"

"けれどそうした失敗を繰り返していると、新たな発見をすることもある""新たな発見?""僕はそれをここで見つけることが出来た。うん、思った通りだ。君たちの笑顔や笑い声は見ていてとても豊かな気持ちになる""君たちに沈み陰ったような表情や、暗い言葉は似合わない""けれど高らかに笑い、表情を明るくさせると天にも負けないくらい…この音にも敵うくらいに君たちは輝きだすんだ!""人は、楽しい気持ちが生まれれば自然を口許を緩められる""楽しい気持ちを生む為には、僕らが自分で自分の為に自分がやりたいことを精一杯探さないといけない""その探す過程すら楽しいと思いたいから、人は言葉を交わし、喜怒哀楽を繰り返し、そうして幸せな気持ちをたくさん生み出していくんだ""難しいことを言ってしまったような気がするけれど、ようするに僕はね、""なんか、という言葉は心の中だけで使ってやってほしいということだ""口に出すと禍が生じる、ということもある。言葉は自分の気持ちを代弁してくれるけれど、それは時として自分自身を傷付ける呪いにもなるんだ""君は自分が気になった疑問をわざわざ僕に、相手に聞いた"

"本来ならそれは周りの大人が先に訊ねるようなことで、特に君のような幼い子供なら周りに任せて何も言わない子がほとんどだ""だけど君は聞いてきた。それは君が自分の疑問を自分で解決しようとしている証拠で、君の中の"勇気"という部分が君に対して働きかけた結果なんだよ""君は、君が思っている以上に、"なんか"という言葉を使わなくても立派なくらい素晴らしい人だと僕は思う""だからといって今こうして見守っている君らに作れない、
なんてことはない"

"さて、何かを作るときに一番大事なことがなんだか分かるかい?""優れた知識でも器用さでも素早さでもない。
――そう、それは好奇心だ""君らは今よそ者の僕が響かせたこの音に好奇心をくすぐられて近づいてきた。君らにも、好奇心がある。それは何でも作れる証拠だ""だから作ろう。もしも失敗したのなら途中からでも繕ってしまえばいい。新たに作ってもいい。そうしてこの町を光でいっぱいにさせてみないか"旅人の言葉に、一人、また一人と頷きを返し、笑い合い、やる気を見せつけ、そうして人々の声が空に天高くあがっていきます。その後、旅人は大きな大きな鐘を作りました。教会にあるような綺麗なものではありませんが、それはそれは大きな鐘でした。旅人はその鐘が出来上がるのと同時にまた町を離れ、旅を続けました。そんな旅人の元へ自分達の音が届くように、町の住民は一年に一回、旅人が町から離れたその時刻に鐘を鳴らして旅人へ感謝を伝えて続けています。住民達はこの鐘を町の光とし、その鐘の寿命が尽きるまでいつまでもいつまでも暖かな音と共に暮らしましたとさ。    おしまい。

新年の挨拶と報告と感謝を。

 久々の更新ですね。まずはじめに。「いつ日」最終回まで更新終わりました!とりあえず終わった、です。あともうひとつ別で更新しようとは考えてますがこれを続けて。 「いつ日」をノベルゲームにしようと思ってます! 現在のほほんと制作中……なんとか侑子ちゃんの話まで終わったところです…… ノベルゲームのほうではこちらで更新しているのとは別に4、5つ(予定)の話を追加。(短いのもありますので3つくらいに感じるかも) また、こちらで更新しているのとは別に2つのENDを追加する予定です。ぶっちゃけますとこちらで更新している最終分はNORMALENDになります。なのであと2つ…
どういったENDが追加されるのかゆるりと期待して待ってていただければなと。そして更新していた5話までの分をまとめて別のほうに移転。話中の千登勢、叶樹視点をざっくりカットしています。
こちら、ゲームのほうではちゃんと読めますのでご安心ください。(条件は付きますが…)ジャンルとしては、あまり多く付け加えたりせずに
一般的な"ノベルゲーム"にさせてください。色々と注意する点はたくさんありますが、
それは今後「いつ日」のHPのほうやゲーム本編でお知らせさせていただきます。プレイヤー皆様方の快適なプレイの為にもこういった注意事項はしっかりと目を通していただけると助かります。よろしくお願いします。また、新年明けましたので、いつ日のほうのサイトで明けたよ!2の小話を更新。読みたい方はこちらへどうぞ。………………え、もしかしてキャラ設定の話を期待しました?じ、次回ね!話しきれない部分もあるので!!(

「いつも通りの日常は。」・・・3/3

作:星喰(hoshikui)設定1/32/33/3(ココ)他の話へ     「…見つけたぞ!」「っ!」低い男の声。……心から凍り付けられたような心地のまま顔を上げると、
さっき私達に襲いかかろうとしていた男の人が遠くのほうに見えた。「……あとは向こうでしっかり聞くから。今は出口まで走るわよ!」「っ…」「待て!!」頭が熱でぼやけたまま二人の少し後ろのほうを走っていると、叶樹さんの手が私を掴み、引っ張られる。「っ…彩希!この子引っ張って先に行け!!」「…叶樹は!?」「少しあれの相手してからすぐに追う!…貴方もぼやっとしてないで早く彩希と一緒に出口に向かい…なさいっ!」「っ…!!」言葉と同時に彼女の手が離れたと思った次の瞬間、私の腕を千登勢が強く掴んだ。喉の奥が急激に冷たくなるくらいの勢いで彼女と一緒に走っていると…後ろのほうから甲高い金属音が聴こえてきた。……心配になって視界だけ後ろに向けようとすると、真剣な叶樹さんの声が響き渡る。「振り向くな!!走れっ!!」思わずびくっとなって向きかけた視界を元に戻すと、
私は脚力のない足に鞭打つように息を切らしながら走った。けど、出口まであともう数歩のところで……私達は立ち止まる。出口の前に大きな大きな―――鎌が見えたから。 「数分振りですね」「………」「…誰?」「……なるほど、貴方は笹凪千登勢……いえ、日塔彩希さんと言ったほうが正しいですか。…挨拶もせずに勝手に入ってしまい申し訳ありません」「……」「そちらの彼女に少し用があるのですが……引き渡していただけないでしょうか」「……ふうん」「…ち、千登」納得したかのようなその声に私を引き渡す気なんじゃないかと冷や冷やしながら彼女を呼ぼうとすると、彼女は見たこともないほど冷たい目で彼を見返した。「あの叶樹が妙に焦ってたから何かおかしいなとは思ってたけど……そっか。……避けたがってる相手なんだ」「?」「勿論引き渡していただけるのであれば"私達"は早急にここを出ます」「ですが……後ろで振り回されている"彼女"、いつまで持つでしょうね」「持つに決まってんじゃん。あの程度なら私でも…」「――――っく……ぅ……っ!!」 切羽詰まったような声に振り返ると、叶樹さんの首や腕のあたりから血が飛び散っていた。「叶樹さんっ!!」「………」「一つ、面白いことを教えましょうか」「私達の存在は人間にとって言わば空気のようなものです。視えないから相手にされない。相手にされなければその分その時々で 自分がどのようなことになっても気付かれない」「そう、私達のような存在が消えるに必要な条件は――ただ骨や血肉を切り離され血を流すことだけではないんですよ」「っ……」その言葉に一瞬八野先生が思い浮かんで、息を飲みこむ。……あのとき……気を失う前に見たとき先生は倒れていて……地面に何かが流れていた。血の色とは明らかに違う、おかしな色。
それがペンキや絵の具だったらまだ分かる。……でも。「そして私達が存在しえるのに必要なのも、人間のそれとは違います」『……無事よ』『え?』『八野由紀也なら無事よ。安心なさい』『そう……なんですか……?でもあんなに血が…』『…どうせ役職の奴らに絡まれたんでしょう。貴方も同じ場所にいたのなら大方間違えたんじゃないの』『おや……』『役職持ちは人間に危害を加える存在じゃない。そうよね?』『はい。もしもの際の対処法ならそれぞれ分かっているはずですから』――あのとき微かに鉄臭い匂いが鼻についたのをどうしても"気の所為"とは片付けづらい。 「…だったら何。後ろの雑魚が不死身だから叶樹は死ぬとか?」……ぞっとするほど冷たいその声音に、思考から現実へと引き戻される。「不死身かどうかなんて関係ない。誰かを消すのにそんなくだらないことどうだっていい」「………」「パッと見たところ直接誰かを殺したことなさそうだし、…折角だから私からも一つ教えてあげる」「殺すのに必要なものなんて―――無いんだよ」言葉を挟めない程の冷たい空気が場を覆う。どうすることも出来ずに叶樹さんのほうへ視線だけを向けると……
誰が見ても分かる程に彼女は血に塗れていた。その姿に息を吞むと、彼女は再び彼からの攻撃を避けるように動きだしていて。(も、……もうやめさせないと……これ以上は……叶樹さんが…っ!) 「………だからきっと私のことも殺したんだろうね」「え…?」混乱している私の耳に微かな呟きが入りこみ、一瞬思考が止んだ。(殺した、って……) 「どっちが人間らしいのかくらい見れば分かるでしょ。……例え不死身でもそのあたりは消せなかったんだろうね」「だったら叶樹は死なない。…元々人間染みた存在(人)なんかに叶樹は向いてないんだよ」「――化け物、だからね」最後に呟いたその言葉に、私は酷いとは言えなかった。だって―――『………同じ、だったから』『何かを殺したい欲求しかなかった私と』私の見知った表情や優しい声音で、同じようにそう言ったから。「…なるほど、引き渡してはもらえないようですね」「バトる前に質問してもいい?この子に何の用でそんな物騒なもん構えてんの」「貴方には関係ありません」「関係あるね。叶樹の知り合いは私の知り合い。友達なら友達って具合に私と叶樹は密接な関係だし」「…それに知りたがってるのは私だけじゃないと思うけど?」 そう言うと千登勢は私を一瞥したけれど、すぐに視線を彼へと戻して続けた。 「どっちにしろ早くしたほうがいいんじゃない。叶樹を追い詰めてもあんたにとって恐ろしい結末しか待ってない気がするけど」「彼女は罪人なので、処刑することになりました」「罪人?」「えっ……でもさっき――」「貴方はまだ私に話していないことがあるはずです」「……?」話していないこと、と言われても……
どうして私は彼から罪人呼ばわりされているんだろう。『見逃しますよ。――だって貴方は私を忘れているのですから』『このままあの人と話を続けでもしてみなさい。……会話中に記憶を思い出しでもすれば―――確実にあの人に消されるわよ』私は彼のことを知らない。自分がなんで危険を冒してまで廻ったのかも。
もしかしてこれは……思い出させる罠、なんだろうか。
私は静かに息を吐いた後、唇をきゅっと結んで彼の質問に答えた。「ごめんなさい、分からな…」「そんなことはない、貴方は知っているはずです。――日本小恵子さんのことを」「?」突然知らない名前を出され、本当に不可解な声をあげた私に構うことなく彼はこう続けた。「秋涼駅です。覚えていませんか」「……あ…」その言葉に、あのとき掴んだ手の感触を思い出した。確か、あのとき……あの………とき、は……。「………」「貴方はウツシミでありながら死ぬはずだった彼女を助けてしまった。…それが貴方の罪です。だから私は貴方を処刑しなければなりません」「――同じウツシミとして、私達の重大な"決まり"を破ったことを後悔させる為にも」「……ち、違う……っ……あれは、華那…姉で………」(あ、あれ。おかしいな……なんか………頭が……熱い……)(…あのとき掴んだ手の向こうにいたのは華那姉だったはず…そうだよ………そう……)ざらざらとした砂が貼り付き少しずつ彼女の姿が歪んでいく。(ようやく助けられたんだ……私は、彼女に感謝の言葉一つもろくに言えてなかったから…………だから……)その姿はゆっくりとこちらを振り返って―――「罪が何?」…落ち着いた声に、今思い浮かんでいたことが全て溶けていく。それから声のしたほうへ振り返ると……血塗れの彼女が今にも倒れそうな状態のまま立っていた。「廻ったウツシミならもう人間でしょう。…人が人を助けることの何が罪よ、馬鹿じゃないの」「………」…会話している二人から少し視線を外し、周囲を伺うものの、
私達に襲いかかろうとしたあの男の人はどこにもいない。そのことで私が不安がっていると、彼女が千登勢に向かって何かを投げてきた。「遅い」「ごめん。出せるか分からなかったから」「……?」小さかったこともあって、それがなんなのか分からずに状況を見ていると…「これでっ…終ーーーわりっ!!」千登勢は足元にそれを落とすと……あろうことか踏ん付けた。ガラスが割れたような音が場に響くのと同時に、足元から枝を伸ばすかのように周囲の景色が真白くなっていく。「……これは…」「最終手段(奥の手)を取らせてもらったわ」「……」「さて、どうするの王。…これでも彼女を止める?」「………」「……………分かりました。ここは引きましょう。あとのことは任せましたよ、店主」「ええ。……今回のこと、悪かったわね」「………」「……貴方も変わりましたね。どなたの影響ですか」「…さあ。私も知らないわ」「ふふ…」王が笑いながら私のほうへ視線を向ける。それに少し身構えながら私が視線を投げ返すと、彼は私に背を向け一言。「今度は正しい廻りになるといいですね」「……」それだけ告げると、王は遠くへと去って行った。
危機がなくなったことにホッと胸をなでおろしつつ私は彼女のほうを振り返って――「あの、本当に大丈――……えっ?!」そして驚きの声を上げた。だってそこには……さっきまで血塗れだったはずの彼女が傷一つなく立っていたから。「…何、どうかしたの」「え、えっと……傷、大丈夫かなって思ったんですけど……」「ああ。平気よ、なんともなかったから」あれだけ血塗れになっておきながら"なんともなかった"は
おかしいような気がするけど……。まあ……さっきの王の話も自分のことに関しても、半々で理解しているようなものだったし、これ以上聞いたところで私には理解し辛いのかもしれない。私はそう思って追及せず、これからどうするかを二人に聞くことにした。「そういえば……さっき最終手段とか言ってましたけど…
 あれって一体なんだったんですか」 「………」彼女は少し悩むような素振りを見せ……けどすぐ諦めたかのように口を開く。「王も話していたけど、ここに廻って来たのは貴方一人じゃないのよ」「あ…」『……貴方が私達の世界における門を潜る際、もう三人いたとの報告を受けています。自分が誰と一緒だったのかは分かりますか?』「人間の意識間に廻るなんてこと貴方一人だけなら確実に無理だったはずよ。…もし廻れたとしてもいずれ歪(ひず)みを起こして数年も持たずに消える」「……自由に行き来できる現世じゃない分、ここは非常に危うい場所だから」「それでもそんな貴方が今もここで生きている理由は、一緒に廻った他のウツシミと近しい存在になっていて、
 且つここを形作った本人(彩希)の近くにいたこと」「あとは………貴方が思い当たっていたその人からの助けを彩希が受けていたはずよ」「先生から……?」「…私もその人の気を辿ってここに来たの。さっきみたいな奴らに絡まれたこともあって少し来るのが遅れたけど」「そうだったんですか……」「最終手段っていうのは、その途中で手に入れた"鍵"のことよ」「鍵?」「ここに向かう前から私は彩希だけが助けを受けているわけじゃないってなんとなく知ってた。…本人に近しくないウツシミだと記憶の障害を起こして消えてしまうケースがより高くなるから」「でもあの人からの助力を得ていれば話は別よ。……まあ、実際は盗まれてたんだけど」「盗まれた?」「そう、店の物品をね。無人のときに勝手に盗まれて。…無用心だったとはいえあそこは普通の人間には見えない仕組みになってたから気が緩んでたんでしょう」「あの人はいつも緩みっぱなしだと思うけどねー」「………」「まあ、それが貴方と一緒にここに来たウツシミか、別の者かは分からないけど……ここが明らかに変わっていったのはそれからよ」「……本来なら私は貴方が何らかの症状を引き起こす前に貴方を消すつもりだった」「っ…」「貴方、拒絶症状以外に何かなかった?」「…………それは…」「……その様子だとあったみたいね。…じゃあ質問を変えましょう。――その症状が"なくなった"のはいつ頃」「……華那姉が、亡くなった後、くらいから…」「…やっぱり、知り合いだったのね 「……え?」「さっきその人が亡くなってから症状も消えたって言ってたけど、周りに盗んだ人がいたってこと?叶樹」「……そうね。…結局鍵は見つけられなかったけど」「え……でもさっき千登勢が…」「だから最終手段よ。本来ここは彩希の意識下だから彩希が願えば鍵は簡単に見つかる。……本人が意識を取り戻したいと願えればの話だけど」「色々と邪魔が入ったから、もうなりふり構っていられなかった」「そうだったんですか…」「……あの……華那姉は……」「聞かないで」「……」「貴方が他のウツシミのことを探ったところでいいことなんて一つもないわ。……現にさっき思い出しておかしくなりかけたでしょう。今までもそうだったんじゃないの」「これ以上の話をしたところで日常に戻る貴方には全て関係のないことになる。それでいいじゃない」「…分からないことを分からないままで済ませるのは別に悪い事じゃない。世の中には自分が知りたくないことを知らされることだってあるんだから」「………」「叶樹の言う通りだと思うよ。…見たとこ、君って人のことはよく心配してそうだけど自分のことになるとからっきしなんじゃない?」「過剰な好奇心は身を滅ぼすって言葉くらいは知ってるよね。五体満足に済んでるんだし、これくらいで留まっておいたほうがいいよ」「じゃないと―――いつか本当に壊れるよ?」「っ…!」「彩希」「はーいわかってますよーお口チャック」「………、とりあえずもう帰りましょう」「……帰るって、どこに…」「それぞれの場所に」「………」「…彩希、貴方は先に戻ってなさい」「戻る?」「ええ。……さっき壁や鍵を出したときと同じ方法よ」「ん、分かった。叶樹、待ってるね」「……………、ええ」 「ええっと、小町だったっけ」「!」「ばいばい?」「…………」そう言って手を振った千登勢は私達に背を向けると透けるように消えていった。消える一瞬、彼女に向かって手を伸ばしたけれど……その手が彼女を捕えることはなく、空気だけを掴んだ手がだらんと垂れ下がった。「………貴方についての記憶が消されたことを、私は悪いと思わないわ」「……」その様子を後ろで見ていた叶樹さんが呟く。……私はそれに振り返ることなくに彼女が消えていったほうをただぼんやりと見つめていた。「貴方は知らなかったでしょうけど彩希の私への執着は大きかった。…私も気付いてはいたけど、まさかここまで大事になるとは思わなくて……」「本来ならあの子が謝るべきなんでしょうけど、そうさせてしまった私も私よね……。それだけは貴方に対して悪かったと思ってるわ。ごめんなさい」「………謝らないで、ください」「………」「…謝っても、記憶が戻るわけじゃないんでしょう……」「………そんなことされてもなんだか惨めだし……だから、もう」「貴方に対して私に出来ることは分裂させることだけだった」「……」「そこから貴方がどんな風に人生を謳歌するのかは自由よ。…もうこんなことに巻き込まれる心配もない。それだけは約束するわ」「………」「……聞いてもいいですか」「……ええ」「叶樹さんにとって、千登勢はどんな人だったんですか」「マセガキ」「……」「その上我侭。……でもその我侭の具合がおかしくて、嫌いになれない。彩希は私を同類と見てたけど……根本的なところで私とは全然違う」「……そんな彩希が、少し羨ましく思うこともあった」「………」「私からも一つ質問してもいい」「…はい」「――もし彩希が人を殺そうとしたら、貴方は止める?」「………」「…………………………止めます」「どうして」「……人を殺してほしくないから」「その人が彩希にとって憎むべき相手でも?」『……修おじさんがいなくなって……その男が焼け死んだ後も、私は両親や叔父の私室から何匹も小動物を連れ出してはこの手で殺した』『それでも足りなかったんだ!!
 刺して潰して抉り出して潰して踏みつけてぐちゃぐちゃにしても足りなかった!!』「例え、そうだったとしても………殺してしまったらその人と何も変わりません。……同じ苦しみを繰り返したところで後には悲しみしか残らないんです」「千登勢にはもうそんな苦しみを味わわせたくないし……私もそんな千登勢、見たくない」 「………」「……私なら彩希の好きなようにさせるわ」「…えっ……」「綺麗事を繰り返すだけじゃ人は何も学べないから」「…だ、からって…………千登勢が人を殺してもいいって言うんですかっ!?」「ええ」「っ……なんで…?」「途中までは貴方と同じ理由よ」「え……」「……彩希がどうするか。それを決めるのは私じゃない。彩希本人よ。いくら周りが止めたところで自分でどうにか出来ないんじゃ、彩希は何も学べない。痛みも知れないの」「でも殺人を許してしまったら千登勢は…!」「……ねえ」怒りが止まらない私の言葉を、冷えきったその声が止める。一瞬怒りでいっぱいだった思考が途切れ、その直後……彼女の表情を見て私は喉をひくつかせた。……それは……笑顔でも悲しみでも怒りでも苦しみでもなく―――
全ての感情を削ぎ落としたかのような、無表情で。…その赤い瞳の中に映った私が、まるで動揺したかのように小さく揺れていた。「…人を殺めるとどんな気持ちになるか、貴方は知ってる?」「え………」「一度刺すと、誰が何を言ってももう止まれないのよ。どんなに鈍い感触でも、悲鳴をあげられても、何度反撃を受けても、二度、三度と続けてしまう」「どうしてか分かる?…死にたくないからよ。自分はまだ生きていたいと願うからよ」「人は、生死に関して無知過ぎる。簡単に死にたいと嘆く人もいれば実際に自殺した後で勝手に後悔してる馬鹿もいる」「…それなりな理由で殺し殺された人もいるけれど、総じて共通するものがあるのよ」彼女はそこまで言うと……私には計り知れないほど強く、怒りでは表しきれないほどの声音を乗せて。「――私はそれが嫌い。それを見るのはもううんざりよ。…正直、貴方の発言もそれが染みついていてすごく気持ちが悪いわ」「…っ……」まるで地の底を這いずっているかのような、酷く、冷めきった声で。「その上で……周りに影響されかけてる、"自分(私)"も、私は好きになれない。本当……私だって、死ねるなら死んでやりたいところよ」「けど……私には約束があるから」「だからどんなに苦しくても、辛くても、痛くても―――私は死ねないの」「……」「…私と違って他人に情を向ける余裕が、貴方にはある。それは貴方が人間である何よりもの証よ」「だからここから出て、日常に戻ったら……ここであったことは忘れて、人間らしく生きなさい」 「――それが、"貴方"の望んだ日常でしょうから」「……貴方、は」「……」「…貴方も、それを望んでいたわけじゃないんですか?」「……どうしてそんなことを聞くの」「……」「…………今更、普通に生きることなんて出来るわけないじゃない」「えっ…」「…そろそろ時間ね。私ももう行くわ」「ちょっ……待って―――!」止めようと手を伸ばすと…指の先から白い光が溢れ、どんどん強くなっていく。「…………」「叶樹さん――っ!!」「………………」「…………さようなら、もう一人だった私」…………………………。………………………。……………………。…………………。………………。……………。…………。………。……。…。さて、この話をする前に今話している私の紹介から始めるとしよう。こほん。私の名前は田中小町……今平凡な名前だと思ったそこのお前。今日うちの夕飯の材料にして両親に食べさせてあげるから覚悟してなさい。話を元に戻そう。私は私立清藤中学に通う極々普通の…四月からは中学三年生になる。 『可もなく不可もなく……あ、でもでも彼氏持ちの貴方!
 今日は彼氏と一緒にいるとちょっぴりいいことあるかもっ!』「………」それでも……こんな私でも可愛い話が出来なくても彼氏は欲しい。…心の隅にある程度の密やかな憧れだった。少女漫画みたいな恋をして、キャッキャウフフと笑い合い色んな障害を乗り越えながら、
それでも一緒にいてくれる人……。……間違ってもこんなこと周りには絶対言えないけど。(それでも私もいつか誰かと恋して、そんでもって彼氏作ってみたい…)それにこんな平凡な毎日に飽いてキラキラした時を一日でも良いから過ごしたいと
願うのは何も私だけじゃないと思う。……多分。大きく夢見すぎな感じは若干あるけど……まあ夢は大きくあるほうがいいんだと
誰かが言ってたのを思い出しつつ私は目の前の桜が舞う通学路を
再び歩き出そうと一歩踏み出した―――「こーまーちー!おっはよぉぉおおおお!!!!」 これはそんなどこにでもいる中学生の日常の話。……たまに少しだけ常識外れなことが起こったりもするけど
――― それが、私の日常で……。"彼女"が望んでいた。いつも通りの日常だった。 Fin    *この物語はフィクションです*作中に出てくる人物や名称等は架空のものであり、実在の団体や組織、事象とは一切関係ありません。また、特定の思想や行動を推奨するものではありません。     2/31/3 他の話へ    ここまで読了していただき、ありがとうございました!星喰(hoshikui)

「いつも通りの日常は。」・・・2/3

  作:星喰(hoshikui)設定1/32/3 (ココ)3/3他の話へ   …私達が座った椅子が、浮かび上がっている。地面が遠くに見えるほど、上に、上に……。 「しかし説明するとはいえ、何から話しましょうか…」そんな中、ウツシミの王は手を組んで視線を宙へ彷徨わせていた。「……んん…、そうですね……。 貴方から聞きたいことを訊ねてもらい、それに答えるような形でもよろしいですか?」「あ、はい!……あの、それでえっと……全然関係ないことだと思うんですけど……一ついいですか…?」「どうぞ」「……こ……これいつまで浮くんでしょう…?」冷や汗を流しながら私がそう訊ねると、彼は平然とした顔で「話が終わるまで、でしょうね。……もしかして、高所は苦手ですか?」「い、いや苦手とかそういう以前の問」「ならよかった。さ、遠慮なく質問攻めしてくださって構いませんよ」「……あの……お、落ちませんよね、これ??」「落ちたいんですか?」「いえ全っ然!?」「大丈夫ですよ。もし落ちたとしても彼女が助けてくれるでしょうから、安心してください」「さ、流石にこの距離は無理があるんじゃないかって思うんですけど……?」「私は助けないわよ」「!!?!?」「おや、残念でしたね…?…では落ちないようにしっかり椅子にしがみ付いていてください」「……」(わ、私……生き残れるのかな……)「じゃあ、あの………聞きたいんですけど、私、ウツシミだったんです、よね…?」「そうですね。記憶を消すことも役職に就くこともなく、勝手に廻り地上に降りた罪人でもあります」「っ……な、なんで私がそうしたのか分かりますか…?」「……残念ながら。いくら私が何億人のウツシミ達を束ねる王だとしても一人一人が抱える問題にまでは気付くことはできません」「私が一人を注意深く見てしまえば余計にあの世界の混乱を招きますからね」「…大変ね、貴方も」「いえ。…この点では現世でもそう変わらないと思いますよ。最高位につく者が誰か一人を気にかけたときに生じる混乱などそちらでもよく起こしてるでしょう?」「……それもそうね」「………」「なので私には貴方がどうしてそうしたのかは分かりません。…ですが、推測を立てることなら出来ます」「えっ」「………」「お、教えてください…!」私がそう頼むと、彼は人差し指から薬指にかけての三本を立ててこう続けた。「……貴方が私達の世界における門を潜る際、もう三人いたとの報告を受けています。自分が誰と一緒だったのかは分かりますか?」「…一人、だけ」「………、…それならば、その方が一番関わっているのではないかと思います。私達ウツシミは役職でない限り、廻られるウツシミ達を引き合わせないようにしていますから」「え……それ、どういう…」「…私達が記憶を消さなければ廻れないというのは貴方もご存じのはず」「………あ…」「記憶を失くしていくのに他の方と接点を持ったところでどうするんです。私達は彼らにここに来てまで傷をつけさせるわけにはいかないんですよ」「…ウツシミの世界は貴方方にとっての"天国"に近い場所でも在るんですから」「天、国……」「…ウツシミ同士がずっと一緒にいるようではこちらとしてもすごく困るんです。――私達の世界は"そういう"場所じゃないので」「そういう…………た、例えば誰かと結婚したりとか…」「勿論それは廻ってからにしてもらいます」「廻れば…その相手とまた出逢えるんですか」「それは分かりません」「……」「…役職に就いている方々も、私だって同じです。そういった目的で廻るのを遅らせているのであれば、それは私達における"決まり"を真っ向から破っていることになりますから」「……そんな…それじゃあ記憶を失うまでずっと一人で……」「……貴方は、法や決まりがどういった形で作られているのかを知っていますか?」「え?」「民衆を纏める、種族間の定義統一……考えてみれれば多種多様に色んな意味はあると思いますが……――結局それらは皆自分や周りの"正しさ"……正義を見極める為に作られているんですよ」「正義……ですか…?」「ええ。……その上で、人間として生きてきた貴方に一つ訊ねてもよろしいでしょうか」「…はい……」「―――貴方には、私が"生きているように"見えますか」「………」「彼女から紹介されたように、私はウツシミの王です。死人を束ねる役目を担ってはいますが私だって彼らと何一つ変わりません」「…私達がこうして貴方方(人)と対して変わらない姿形で在るのは、生前にあったあらゆる事象を忘れられていないからです」「辛く苦しい記憶なら尚のこと。…そういったウツシミ達は皆、あの世界の中で永遠に彷徨い続けています」「それは……」「……いつかは廻らなければならない私達にとって一番に残せないものがなんだか、ここまで言えばもうお分かりですね?」「―――思い出、記憶……廻る度に忘れてしまう私達にとって、それはどうすることも出来ない」「…………」「…今までずっと、そうしてきたんですか」「はい」「……確かに貴方の言う通り、法や決まりを作ったことで 周りの人たちが安定して過ごしやすくなったのは分かります。この街も時代もどんどん変わっていって、人もそういうのに定着して……」「……でも……でもそれは……寂しくないんですか?」「…………」「……………感傷を持ち続ければ余計厄介だと言っているのがまだ分からないの」「え…っ?」それまで静かに話を聞くだけだった叶樹さんが急に話に入ってきた。…彼女は私の驚いた様子に構うことなく、冷たい口調でこう続ける。「頭がお花畑な貴方にも分かるようにハッキリ言うけど、そういった感傷をこの人達の世界に持ち込むなと言っているの」「それがあったから今回のことだって引き起こされた。…貴方だって自分がウツシミだったことを忘れてるわけじゃないでしょう」「…っ!」「死んだ人間達(ウツシミ)が新しい人間として廻るために記憶削除(デリート)は必要なことよ。…"生まれ変わり(廻り)"の意味くらい知ってるわよね」「――死んだものが,新たな生命を得て再びこの世に姿を変えて生まれること。自己以前に記憶を消さなければ姿も変えられないわ」「……感情なんてもっての外よ。そこまで未練がましい人に新たな人生を歩め、なんて言えるのかしら貴方は」「………」「ふふ。感情を持っていては廻っても苦しいだけでしょうしね」「っ……」「…貴方は知っていますか。感情が残れば記憶も引き起こされることを」「昔、私達の世界を作ったウツシミと呼ばれた死人は何かによって記憶を消されたまま時を経て、姿を変えて現世に廻り行きました」「けれどその人には廻る以前に消しきれなかったとある感情が残っていた。ほんの僅かだったそれは現世で時と成長を重ねるうちに大きく育っていき、その人の脳や心に着々と変化をもたらしていきます」「とうとう生前の記憶を思い出してしまったその人は悲しくも辛い生前の記憶に長く苦しんだあと
 もう一度死のう決心し、自殺をされました」「その後、再びウツシミとして過ごしながらその人は私達の記憶を消すこと、また同じ存在同士接点を持たせないようにする"決まり"を作りました」「それからはウツシミ一人だけだった私達の世界にどんどん死人がやってきては廻るようになりました。…これが私達の世界における唯一にして絶対の"決まり"が作られた当時の話です。ご理解、いただけましたか」「…………」「……最初からそれを話せばよかったじゃない…」「すみません。生きている人間(方)と話すのは久しぶりなもので、つい」疲れたように息を吐く彼女とは対照的に、彼はとても愉快そうに笑みを深くしていた。「……あの、ごめんなさい」「何に対して謝っているの」「…話を長引かせてしまって……」「……そうしたのは王よ」「…………貴方の言い分に関しては普通の反応だとは思う」「………」「……けど覚えていて頂戴、貴方の一般常識が別の場所でも通るわけじゃない。不毛な言い合いをする余裕があるなら寄り道せずに聞きたいことだけ聞きなさい」「…でないとこういう人に良い様に遊ばれるだけよ」「遊んではいませんよ。人間(ひと)との会話を楽ませてはいただきましたが」「………」「ですが今の話で大体の予想はつきましたね?」「………、私が廻ったのって……」「今貴方が考えているその人が大きく関わっているんでしょう。細かな理由は分かりませんが」「………」「さて、これで疑問は解消されましたか?」彼の言葉にぼんやりと頭の中に何かが映り込む。それは、「……あの」「はい」「……ここに来る前に……知り合いが……その……倒れてて……」「………」「八野由紀也っていう人なんですけど……分かりますか?」「……………、……すみませんが」「そう、ですか……」「その方がなにか」「えっと……」「……無事よ」「え?」「八野由紀也なら無事よ。安心なさい」「そう……なんですか……?でもあんなに血が…」「…どうせ役職の奴らに絡まれたんでしょう。貴方も同じ場所にいたのなら大方間違えたんじゃないの」「おや……」「役職持ちは人間に危害を加える存在じゃない。そうよね?」「はい。もしもの際の対処法ならそれぞれ分かっているはずですから」「それに貴方がいる場所には"あの人"もいるんだし…ある程度のことならなんとかなるわよ」「…あの人って」「話はこれで終わりよ。早く降ろして頂戴」「貴方はよろしいのですか 「え……いやあの、まだ――」「……さっきの私の言葉を忘れたの?」「…っ」「王も、これ以上は趣味が悪いわよ」「…おや、バレてましたか」「早く降ろしなさい」「おお、怖い。…分かりました、今降ろします」ウツシミの王はそう言って私達が座った椅子をゆっくりと地面へと降ろした。何とも言えない空気に黙り込みながら椅子から立ち上がると、叶樹さんは私に短く告げる。 「…貴方まだ分かってないのね」「え……?」「このままあの人と話を続けでもしてみなさい。……会話中に記憶を思い出しでもすれば―――確実にあの人に消されるわよ」「っ!!」「彩希が戻ってこない上にこの人と争う気力が残っていないから話を合わせたけど……」「…これ以上この人に訊ねるのはやめなさい。いいわね」最後に小声でそう注意され、私は小さく頷いた。「内緒話ですか?」「さっきの誘導に関して注意してたところよ」「誘導、ですか」「……白々しい。最初から私達を見逃す気なんかなかったでしょうに」「ふふ」「えっ……見逃してくれないんですか」「いえ、見逃しますよ。――…だって貴方は私を忘れているのですから」「忘れて…?」「……王」叶樹さんが低い声音で呼ぶと、王はまた愉快そうに笑みを零した。 …そして出逢ったときのような冷たい瞳で私達を交互に一瞥すると「それでは、また。次期店主」「……」別れの言葉を告げ、椅子ごと私達の前から姿を消してしまった。「叶樹ーーーー!!!」その向こうから、千登勢が走ってくる。
遠くから見ても傷はないみたいで私はほっとした。「あ……千登勢…」「………」「大丈夫だった?」「うん。私も叶樹さんも無事で…」「……?」「…早くここから出るわよ」「あ、うん。…で、叶樹大丈夫?」「………」(なんだろう。
何か、噛みあっていないような……)(普通、千登勢ならこんなときちゃんと答えてくれるはず、だよね…)「ね、ねえ…千登勢?」「…?」「怪我とかしなかった?」「………」「………」「――…あの、誰かと勘違いしてる?」「え……?」言われたことの意味が分からなくて、頭が真っ白になっていく。…………誰かと勘違い?(なんで、そんなこと……)『あれ……叶樹、その子』『いいから何も言わずに願ってなさい』『あ、うん…』『?』「千登勢………うーん、…叶樹は分かる?」「………」「…な………に、……言って…」「知らないわ」「―――――――――――――っ!」「そか。…というわけで私達は知らない。ごめんね」      ……叶樹は、人の感情を消すことが出来るんだよね    だからね――大好きな叶樹の手で私の叶樹に対する執着心を壊してほしい 「…っ!!」私は先へ進む叶樹さんの肩を掴むと、その綺麗な頬を叩いた。「っ…」「なっ……」「………んで……っ?」「………」「………消したんですか」「………」「…どうして消したのっ!?」視界が滲む。『こーまーちー!おっはよぉぉおおおお!!!!』『野球やろうず!!』『せんせ―……もういっそのこと全部答え教えてーー…』『待って、こまっちゃん。もう少しだから…!』『こまち……ありがとう……』『…ごめんね』その隙間から千登勢との思い出が出てきては涙と共に頬を伝い落ちていく。「…叶樹、」「手を出さないで彩希。……この子の言う通り、私はあんたにとって大事なものを壊した。…この仕打ちは(これぐらい)受けて当然なのよ」「……わたしの…?」「っ!!」私の問いに答えない彼女に二発目を食らわす。
白く透き通った頬が赤くなっていくのを見ながら、私は何度も『どうして』と繰り返した。……だけど叶樹さんは泣きじゃくる私を見つめるだけで、何も答えてはくれない。「こんなの……っ……こんな……!」「………」「…………うぅ…………ひっく……わ、わだ………わたし……いったい…何の為に……ここまで……」「………」「……り…よ………――こんなの、あんまりよっ!!」私は勢いに任せてもう一度手を振りかぶる。 …けれどその手が彼女の頬に当たるよりも先に…手首を取られた。……ゆっくりと視線をそこへ向けると、千登勢が、私の知らない真面目な表情で私を見ていて 。「………」「…っ……」『私がどれくらい叶樹に執着してたかなんて教えたところで小町は分かってくれる?』分からないよ。『じゃあこれ以上何を知りたいの。…私の口から何を言ってほしい?ここは夢だって、今までのこともおかしな現象だって片付けてほしい?』全部夢だって片付けてよ。…私のことを覚えていないなんて、悪い冗談だって、嘘だって言ってよ……。『だったら早くここから出てってよ!!叶樹じゃないお前なんてここには必要(いら)ないんだっ!!!』私と、あの日常に帰ろうよ……。         ………なあに、こまっちゃん「――…早く、出よう」「……………」「私は君を知らないけど……… …でも、これ以上叶樹が傷つくところを見たくないから、やめて」「………………」その言葉に……私は両腕から力をなくし…頽れた。…誰かに忘れられてしまうことがこんなに辛いなんて。『毎日何か一つくらい殺してないと……自分がどうにかなりそうでさ…』千登勢は辛かった記憶を忘れたかっただけなのかもしれない。『だからね――大好きな叶樹の手で私の叶樹に対する執着心を壊してほしい』…この世界ごと……ここで千登勢に関わったたくさんの人のことまで忘れてしまうことを知っていた上で。『私がどれくらい叶樹に執着してたかなんて教えたところで小町は分かってくれる?』理解してもらえない感情(記憶)を、壊すことしか出来なかった。…私が帰ろうと何度も伝えたことで、結果的に千登勢にこんなことをさせてしまったんだ。………最初から彼女を責める資格なんてなかったのに、私は……。 私は……。「…見つけたぞ!」「っ!」低い男の声がこの場に響く。……心から凍り付けられたような心地のまま顔を上げると、
さっき私達に襲いかかろうとしていた男の人が遠くのほうに見えた。1/3 3/3  他の話へ    

「いつも通りの日常は。」・・・1/3

作:星喰(hoshikui)設定1/3 (ココ)2/33/3他の話へ    「―――そうね、歳も性格も違う。安心なさい、百歩譲っても貴方は絶対私じゃないから」……後ろから凛とした声が響く。振り向くと、そこには長い黒髪の女の子……あのときの生徒会長が立っていた。彼女は腕や足、額から少し血を流しながらも涼しげな顔をしながら数歩先で私達を見ていた。「叶樹…っ!」そう言って、千登勢は彼女に近づいて彼女の腕に触れようとした。(叶樹……って、この人が?)私は千登勢が口にした名前にも――…その手が彼女を素通りしていったことにも驚く。「…な、んで……」それは千登勢も同じだったみたいで、何度も何度も腕や顔に掴みかかっていた。 …… けれど、その手が彼女の腕を捉えることはなくて…。 「当たり前よ。ここは彩希の夢なんだから」「…………」「で、一つ訊くけど………なんでこんなことした?」「………」「…あの人に頼ればどうなるか分からない程、私あんたのこと馬鹿だと思ってなかったんだけど」「だって叶樹が…」「…………本当にどうしようもない馬鹿ね」「………」「死ぬのは自由よ。彩希が死にたいならそれで勝手にすればいいって思ってた」「――"けどこれは何?"」…彼女は私を一瞥すると、冷たい目を千登勢に向けてさっきよりも低い声音を吐く。「ご丁寧にウツシミまで巻き込んで。自分の世界に浸ってたらどうしようもなくなってたって?」「その上私と同じ?……………巫山戯(ふざけ)るな」「っ…!」「あんたはただ私の真似をしてるだけよ」「そんなこと…!」「だったら笹凪千登勢が田中小町から離れたのは何。…ここで不安そうなこの子眺めながら愉悦にでも浸ってた?」「違う…!」「時間規律(タイムルース)のことを考えるくらいなら最初からこの子に本当のこと話せば私もわざわざこんなとこまで来なくて済んだのにね」「………」「これ以上続けるなら二度と夢を見れないくらいにするけど…。その心配はしなくてよさそうね」 彼女はそこまで言うと、またその視線を私へと向けた。 「二度目まして」「…あ……ええと…」「ここまで彩希に付き合ってくれてありがとう。でももういいから」「え…?」「…忘れたの?――貴方はウツシミ。早くここから出て正しい世界(現実)で廻らないと恐ろしいことになるよ」「…あ……」「…本来なら貴方はここに来るはずじゃなかった。ただ、記憶を消さずに廻ったことで運悪く彩希の夢の中に閉じ込められてしまった」 「今も時間規律はこの夢の中でも貴方や他のウツシミを探してる。私も彼らから逃げてきたところで……言っておくけど時間あまりないから」「…わ、たしどうすれば……」「とりあえず一旦ここから離れましょう。それから…」「――待って」その横を歩いていく叶樹さんを、千登勢が呼び止める。「何」「……」彼女は言い辛そうにして一度黙りこんだけど、すぐに続く言葉を口にする。「…廻ったあと、小町はどうなるの」「……」そうだ。…廻ったあと私は一体どうなるんだろう。なんとなく元の場所に戻れると思っていたけれど……ここから離れるということは夢から…千登勢自身から離れるということ?私は……「知らないわ」「…え」「………そう言うと、思った」その冷たい言葉に驚いた声をあげる私とは対照的に千登勢は苦笑していた。知らない、って…。「ここで時間規律に捕まるよりマシな方法を取ってるつもりだけど」彼女の目が私に向けられる。「もしもここから離れたくないんなら、早く言って。私もこれ以上あいつらに捕まりたくないから」「……」私は一度頭を整理しようと瞼を伏せた。ここから離れたら私は千登勢からも離れることになる。折角ここまで来てぼろぼろになりながら訴えた後なのに……私はここで、一人で帰ってもいいの?それに…… 「あ……そうだ、レン」「…レン?」「あの、私と一緒にいた子が……途中ではぐれちゃって…」「はぐれ、って………まさか。貴方が言ってるのは"郵便屋"のこと?」   『…僕の役職は『郵便屋』なんです。別名で『配達屋』とも呼ばれていますが…』「はい、その子が……」「…そういうことね」「?」「ここに来る前、その郵便屋とは会ったわ。貴方のことを見つけ次第助けてほしいともお願いされた」「え……」「あの子必死だったけど……何か約束でもしてたの?」『約束します。僕は貴方がどうなろうとも、ちゃんと貴方のことを助けてここに再び戻ると』『……どうか、お願いします』「約束…、…………戻るって……」 『僕が助けたいと思ってる、人は……薬利、華那という人です』「その人を助けられたかどうか分からないのに……」「…その人?」「…あ、あの!」「っ!?……な、何…」「薬利華那って人、知ってますか?」「……………、…薬利華那」「はい」「………」「……彼女も貴方と同様のウツシミだった。だからいつ時間規律に見つかって何かされてもおかしくない」「そんな……」「…………」「………忘れたのね」「?」「――No.7528645」「……えっ」「……自分がウツシミだってことは思い出してるみたいね」「あ……」「番号にも反応がなし、か……」彼女はどこか考え込むような様子を見せ…
だけどすぐに何かを決意したような表情で私を見据えてきた。「私は貴方に今すぐ廻ってほしい。何であろうが貴方は私のウツシミで、今の私の一部を持ってるから」「…一部?」「分かりやすく言うと、分離。分け離れているの」「……」「死んだ人間と生きた人間が同時に存在しているとどうしても歪(ひず)みが出来る。だからこそ時間規律は何が何でも貴方を捕まえようとしてくるの」「まあ…今まで捕まらなかったのは私達がしっかりと分裂していなかったからでしょうね。そのお蔭で痛みまで共有されてしまっているけれど」「痛み、って?」「………貴方のそれよ」 そう言って彼女が自分の足元を指差す。視線を移すと……そこにはここに来るまでに私がつけた傷痕と同じ傷があった。「あっ…」「分かった?これ以上分離を続けると私も貴方も困ることになる。だから早いとこなんとかしたいの」「廻れば、こんなこともなくなるんですか…?」「そうね。最悪貴方が消えても私は助かる」「消え……」「最悪の場合よ。時間規律(あの人達)に見つかったらどうなるかなんて私は知らないから」「けど……私達が何も困らずに済む方法が一つだけならあるわ」「困らずに済む、って」「……彩希」「……」「そこでぼーっと傍観してるようだけど……これはあんたにも手伝ってもらわないと成立しないんだからね」「え…」「……二度も言わせないで、ここは"彩希の夢"よ。あんたが主軸になって動けばある程度の方法は上手くいく」「けど今まで全然…叶樹だって……」「今ここにいるじゃない。この子が」「………」「…あんた、この子をこれ以上不安にさせるつもり?」「………それ、叶樹に言われたくない」「は?」「だって……叶樹も戻ってこないって、約束もしてくれなかった……」「…私が出来ない約束を交わさないのは彩希だって知ってるでしょう」「………」「例え彩希が死のうが生きようが私は彩希の前からいなくなるよ。絶対に」「……なら」「彩希」「………」「あんた叔父がいなくなってから変わったって話してくれたけど、悪い意味で今も変わってないみたいね」「……」「私にばかり構って、私が面倒と思ってたのも知ってるでしょう」「………」「孰(いず)れあんたもその叔父と同じ場所へ逝く。親しくした人間一人いなくなるだけでこんな面倒事起こして…」「き、叶樹にとってはそうかもしれないけど私は…!!」「……黙れ馬鹿。あれほどあの人に頼るなって言って約束までしたのにそっちの都合で勝手に破りやがって」ドスの聴いたその声音に私も千登勢もびくつく。そして叶樹さんは元の調子でこう続けた。「彩希、あんたは周りが自分を理解してくれるのを待つんじゃなくてそんな周りを自分から理解する努力をしなさい」「り…かい…って……」「周りをこうだと決めつけてばかりのあんたは私から見ても窮屈過ぎるわ。心を広く持って、相手に考えさせるよりまず自分で考えなさい。そうしたら少しは視界も開けるものよ」「……」「……彩希、おじさんもおばさんもあんたが目を覚ますのを待ってる」「…!」「寝ないでずっとね」「………」「協力するでしょう。まあ私との約束を破ったんだし拒否権なんて一切与えるつもりはないけど」 そこまで言い終えると、彼女は私に視線を向けて千登勢を指差した。…あと一押しをお願いしているのかもしれない。私は何を言おうか少し迷いながら…彼女の名前を呼んだ。「……千登勢」「………」「…帰ろう」「……」「皆、待ってる」「…っ」「……彩希、いくら自分が苦しいからって同じ苦しみを周りに味わわせる真似はやめて」「叶樹……」「そんなの、あんたに全然似合わないから」「…………っ…」 大きな瞳から涙が流れる。その大きな大きな涙が地面に落ちると、その場所から私達の周りをゆっくりと明るい色に染めあげていった。「だ……だって……叶樹がいなくなったら……私……一人で……っ!!」「昔と違って頼れる大人もあんたの周りにたくさんいるでしょう。あんた結局何やっても子供なんだしもっとその人達を頼れ」「でも……叶樹がいないの……いやだ……っ!!」「なら仏壇でも作って私を死んだ扱いにでもすればいいよ。そうすれば写真で会える」「…んでそんなこと言うの…!!嫌だよ離れないでよどっか行かないでよっ!!!」「無理」 「なんでっ!!?」「……彩希は私に嘘を吐かせたい?」「っ…」「行かない、ここにいる、離れない、近くにいる。……そう言えば彩希は満足?」「……ぅっ………っく……」「私は叶えられない約束はしない。だからそれも聞き入れられない」「……ぃ…ゃ……」「――彩希、私はちゃんとあんたとお別れがしたかった。だからここまで来たんだよ」「……」「私はあんたが自分と同じだなんて一度も思ったことない。少し頭がおかしいだけの普通の子供だとは思ってたけど」「………」「早くそれなんとかしときなさいよ」彼女は自分の目の部分を指差して千登勢にそう言うと、再び私のほうへ向き直った。「今からやることについて説明するから」「……」「あの子の今後(こと)は貴方に任せるわ。…けど今はそっとしておいて」「…あの、訊いてもいいですか」「手短に」「…!え、えっと……あのあと大丈夫でした?」「あのあと…、……ああ。もしかして貴方が拒否反応を起こしてたときのこと?」「はい……」「……ちょうどいいし説明も混ぜるか」「え?」「簡単にぶっちゃけると、創作やファンタジーで起きるような不可思議な力が私と貴方にはある」「……え?」「おいそれと使えるわけじゃないんだけど、今からやることにそれを使うから」「え、ええ…?」「あのときの拒否反応もその力が反発した結果起きたことだから。それにもしあのとき何かあったなら私もここにいない」「そうで……、あの……これから何するんですか」「さっき言ったけど、分裂……私と貴方を切り離す」「…切り……?」「私から貴方という一部を切り取る、と言ったほうが正しいかもしれないけど」「大丈夫なんですか、それ……」「……大丈夫じゃないから貴方と彩希の力を借りるんじゃない」「…私は何をすればいいんですか?」「分裂するときに手を借りて、私と一緒に力を使ってもらう」「力って…どうやれば……」「………。そうか……分かるわけないか…」「?」「…今から私がやってみせるから。いい、決して口に出さずに覚えるのよ」「え…」彼女は地面に手をつき一度息を深く吸うと、ハッキリとその言葉を吐き出した。「――我汝を問う。戻りし時を今この汝の目に現せ。地の力を受けし汝の身、ここに。狂気なる力で捻じ曲げられた運命の道筋よ、今ここに戻せ――」「×××××××××」(あれ……これどこかで……)  『狂気なる力で捻じ曲げられた運命の道筋よ、今ここに戻せ――』(あのときあかが言ったことと、似てる…?)…ぼんやりとしか思い出せないけれど、なんとなく似てるような気がした。「覚えた?」「あ……えっと…」「…まあ分からなかったときは一緒に言うから。貴方は今の私みたいに地面に手をつくことだけを覚えてて」「…分かりました」「それで……彩希。もういい?」「…………」彼女が振り返ると、千登勢は目を真っ赤にさせて首を横に振っていた。 「大丈夫みたいね」「…全然大丈夫じゃない」「言い返す気力が残ってるなら全然は取っ払ってもいいと思うけど…――時間がないの」さっきよりも語調を強めて彼女は続けた。 「分かるでしょう。もうじきここに時間規律が來る。…早くしないと何もかも手遅れになるのよ」「…もう手遅れでしょ」「………」「彩希、ここを明晰夢にしなさい」「……は?」「聞こえなかった?…"この夢を明晰夢にして"って言ってるの」「して、って……」「ある程度の保証……にもならないかもしれないけど、あんたの協力が無ければいなくなるのは確実に私のほうだからね」「はあ?なんでっ!?」「実体を持ってる私があんたの夢にいることがそもそも危険なことだし、その上力を使ってここにまた歪みでも作ったらそれこそもっと危険な状況になりかねない」「…叶樹……」「けど夢の主である彩希にこの夢の状態を変えてもらえるのなら私が犯す危険性も低くなる」 「…………」「どっちを取ってもいいけど……もし本当に協力しないのなら強制的に私はこの子をここから連れ出すよ」「え…!?」「叶樹…っ!」「私も自分の身は可愛いし。――というか本当に時間ないから。あんたに構ってる暇なんてないくらいには」「…………………」その言葉に、千登勢は俯いて唇を噛んだ。(千登勢…)「………………………………」「……………………………叶樹」「…何?」「……叶樹は、人の感情を消すことが出来るんだよね」「……そうね」(感情……?)色×支×さ××××××在―――「っ……」何かが頭の中で引っ掛かり、視界がぐらつく。けれどそれも一瞬のことで、続く2人の会話が私の耳へと入ってきた。「ねえ叶樹。私……」「………」「私、やっぱり叶樹のことが好きだよ」「ええ。私はそっち系じゃないし応えるつもりもないけど」「知ってる。私もそういう言葉(こと)を伝えたつもりはないから」「………」「だからね――大好きな叶樹の手で私の叶樹に対する執着心を壊してほしい」「えっ……」「分かった」「ちょ、ちょっと待ってください……!それ、一体どういう…」「貴方は知らなくていいことよ。説明する暇もないから」そう言って叶樹さんは服の中から小型ナイフのようなものを取り出した。…透明なのか刃の表面から先まで透き通って見える。「それ…どうするんですか……」私の質問に一切答えず、彼女は一歩ずつ千登勢のほうへ近づいていく。何も返されなかったことで嫌な予感が増し、私は彼女の腕に掴みかかろうとした。「叶樹さん!やめてくださ――」
伸ばした手が彼女の腕を掴んだ瞬間。物凄い力で振り払われて私は地面に倒れこんだ。「ぅぁっ!!」衝撃に思わず瞬きを繰り返しながら顔を上げると―――私の目に、信じられない光景が映った。「……!」 …千登勢の心臓にあのナイフが刺さっている。その透明な部分を赤く染めていくように、流れるように、"それ"は行き来していて。
「ぃ……いやあああああああああああっ!!!」現状を理解するのと自分の悲鳴があがったのは同時だった。「ち……とせ……千登勢…っ!…あ……ああっ……うぅ……っ…!」あのときの八野先生の姿を思い出して吐き気がこみあげてくる。寸前でそれを止め、顔を上げて2人に近付くと……
もうナイフを抜き取ったあとだった。……見ると、千登勢は気を失ったかのように横になっている。…地面に血溜まりは広がっていなくて、その身体にも傷一つついていない。「ぇ……、………え……?」(さっき、刺してるように見えたのに…)(もしかしてあのナイフ、刃物じゃなくて作り物だったとか……?)「………あの、叶樹さ…」 私が彼女を呼んだ瞬間―――突然地面が揺れだし、頭上から砂のような何かが降りかかってきた。「!?」「……さ、早くここから出ないとね」「きょ…叶樹さんこれって…っ!?」「彩希、早く起きて」 彼女が千登勢の額を叩いて起きるよう促す。その数秒後、少し痛がりながらも千登勢はゆっくりと目を開けて起き上がった。 「……ぃ、……った……。…………あれ、叶樹?」「遅い。早くここから出たいって願え」「え、…ちょ、ちょっと待って!出たいって一体何が」「早く願え」「…ぅ、わ、分かった………」「それから……小町、だった?」「あ……はい!」「今から一緒にさっき教えたやつやるから。手を貸しなさい」「分かりました!」「あれ……叶樹、その子」「いいから何も言わずに願ってなさい」「あ、うん…」「?」「いくわよ」「は、はい…!」 叶樹さんがしゃがみこんで繋いでいない反対の手を地面へつける。私も目の前でしゃがみ、同じようについた。「――我汝を問う」「戻りし時を今この汝の目に現せ」「地の力を受けし汝の身、ここに」「狂気なる力で捻じ曲げられた運命の道筋よ、」「今ここに戻せ――」「「何時(いつ)も通りの日常へ」」言い終えたと同時に繋いでいた指先から腕にかけてびりびりと電流のような鋭い痛みが走った。その痛みが酷くて手を離そうとするも、彼女の手が私の手をがっしりと掴んでいて離れない。やがてそれは肩、胸、お腹、足、頭、心臓にまで到達していき、きりきりと何かが破れ、壊れそうな感覚に気を失いかけたとき――――「正気を持ちなさい」彼女は静かにそう言うと、さっきよりも痛いくらい手を握り締めてくる。「……っぅ…」「気持ち悪いんだったら吐いて。そうでもしないと気絶するわよ」「ぅ……っ……ぅぉぉえええっ………っ!!」「……ごほっ………ぅえっ……ぅ……」「………」「……ぅ……っ……!!」「っ…」「………すぅ……はぁ……」「叶樹……大丈夫?」「平気よ。………そっちは出口、出来たみたいね」「あっ……これが出口?」「ええ……こっちはあともう少しかかるから…」「――見つけたぞ」「っ……彩希…壁を作れ」「え、壁?」「いいから早く!壁が出来るように願えっ!!」「分、かったよ!」「……チッ。そっちがそうくるなら…―――こっちも相応の手段をとらせてもらうからな!!」揺れが酷い。頭が痛い。耳が、手が、足が動かない…。視界が歪んでいる苦しい。息が、唾が、何か吐いたあとのような腐った匂いが鼻についてすごく気持ちが悪い。がんがん揺れている。聴こえるのは、千登勢と、叶樹さんと……男の、声…?「おらっ!おらっ…おらおらおらおらあああ!!!」「っ……罅…入って」「もう少し強固にさせて。それか壁の前に遠くまで続く壁でも想像して」「遠くまでって」「私達を囲む何重のもの壁よ。あんたが今しっかりしないと私達は死ぬわ。早くして」「…叶樹」「何」「……もしもあいつがここまで来たら、――殺してもいい?」「そのもしもが来ないようにして。……彩希の好きにすればいいわ」「うん。……なんか全然身体動かしてない気がするから余計に殺したくってしょうがないんだよね」「もしもを来させないようにしなさい」「分かってるって」「………」「でもすごいねここ。私が願ったらすぐに刃物とか出てきた。あはっ、はははっ……」「……あ、……そっか。壁の上から来ちゃったんだ」「……彩希」「うん。殺すね」「……、…………行ってらっしゃい」「行ってき、まーす!」 「!?」「ねえお兄さん。私と勝負しない?どっちが先に殺すか殺されるかの、とっても楽しい勝負(ゲーム)」「……そうか、お前がこの世界の主か」「早くしてよ。でないとすぐに殺しちゃうよ?」「ふざけるな、誰がお前みたいな女に」「隙あり」「っ……!」「ねえどこ見てんの?目の前にいるからって私がすぐ動けないわけじゃないのにさ。一瞬で背後とられたくらいで驚かないでよ、つまらないなあ」「というかもっと早く動いてくれないかな、せっかくナイフ一本でハンデつけて相手してるのにこれじゃあ」 「―――…っとに、つまんない」 ザクッ「ぐあっ……!!」「あーあ。落ちちゃった。…ねえお兄さーん、貴方生前ちゃんと身体動かしてたー?」「貴方の恰好って多分"ウツシミ"だって思ったんだけどさー、体力とかって死んでも変わんないわけ?」「そんなんでよく叶樹を襲おうとしたねー。その程度の体力じゃかえって潰されちゃうだけなのに」「私が相手でよかったと思いなよー?私は優しい叶樹と違って相手の人間をぐちゃぐちゃに殺して家畜の餌にでもするから」「君のことも後残りなーく綺麗に片付けてあげるから安心してね!」「……お前こそ……どこ……見てるんだ……」「………。……あ、そっか。そっちにもいるんだね?」「はっ…今頃あの女も…」「うん。十分時間稼ぎにはなったね」「……?」「君は叶樹が君らのようなウツシミ如きに殺られる"人間"だと思ってるの?」「……あの女は人間じゃねえだろ」「そう。叶樹は"化物"だよ。私以上に強い―――」「さっきまで地面に這いつくばってたけどな、その化物」「………………は?」「どっかで殺りあったあとだったし好都合だったんだが、あの女勝手に逃げやが」「今なんて言った」「はっ?がは……っ!!?」「殺りあった?………叶樹が?……なんで」「叶樹と本気で殺りあうのは私だ!!適当な嘘を吐くなよこのカス!!!」  「――まさか私が出向くことになるとは思いませんでした」「っ………」「……?」甲高い靴音と、さっきとは違う男の人の声がその場に響く。断絶的に続いた痛みがようやく治まり始め、残った気力と共に顔を上げると……
一人の青年が冷たい眼差しで私達を見下ろしていた。…いつの間にか揺れも収まっていて、砂のような何かも落ちてこなくて。「店主も見つけられればよかったのですが……まあ2人も揃ってるので上々ですね」「さて―――No.7528645」「っ……」青年からその冷たい目を向けられ、私は息を吞みこむ。「貴方は我々ウツシミにおける最大の罪―――記憶廻りをされました。よって」「――貴方を二度と廻らすことのないよう私が直々に処刑させていただきます」 彼は口許をあげ、私に断罪の言葉を吐いた。
その…空気が重くのしかかってくるような感じに私が何も返せずにいると…
「訂正なさいウツシミの王。この子はもう私とは違うわ。ただの人間よ」彼女がそう言ったのと同時に痛みがパッと消えていく。…これで終わったんだろうかさっき言っていた"分裂"というのが。「……そのようですね。…しかし、彼女が再び現世に廻れるとお思いですか?」彼……ウツシミの王が片手に持った鎌を振り上げる。次の瞬間にくるそれが怖くて私は咄嗟に両手で顔を覆った。「いいえ思ってない。だから話し合いましょう」「………ひっ…!」彼女の静かな声が効いたのか痛みがないことに安心して恐る恐る目を開けると……眼前に鎌の切っ先が見えて、思わず私は声を上げて後ずさった。…ウツシミの王は鎌の切っ先を私から彼女のほうへ動かすと、感情の視えない目で彼女を見下ろして「話し合い?………はて。今回の騒動、私達に何も言わずに動いたのはそちらでは」「貴方達の手を煩わせる気はなかったのよ。本来なら早めに済ませようとしていたのだけど……こんな風に貴方が直々に出向いてくるまでの期間が掛かってしまったのは謝るわ」「それはそれは。…しかし元来ウツシミの異常行動に対する処理は同族である私達の役目。例え貴方のウツシミであれそれは変わりません」「ですが化物である貴方がこうして力を行使してくれたのです。あとのことは私にお任せを」「あら、私を気遣ってくれるのね。ありがとう、これくらい全然平気よ。…私はこれからあの人の後を継ぐのだしこの程度で根をあげてちゃ世話ないわ」「………」「――あ、あの……化物って、言いすぎじゃないですか…?」「……?」怯えて縮こまってる癖して何を言うかと思われるかもしれない。けど、その言葉を人に向けて使うのはどうかと思った私の口がふと開かれてしまった。…二人の視線が集中する中、私は少しびくつきながらも続ける。「…た、確かに叶樹さんとは少ししか話したことないし、今だってこんなことに巻き込まれても私と違って全然冷静だし、すごいなって思いますけど……」「でも…私にはちゃんと彼女が人に見えます。……だから彼女のこと化物って言わないでください。…貴方の何気なく言った一言が誰かを傷付ける場合だって、あるんですよ」「………ほう」「………」「時に次期店主、貴方は化物だと言われて傷付いたことはありますか」「慣れたわ」「それはそれは。……慣れるまでに傷付かれたので?」「忘れた。…そんなことどうでもいいでしょう」「ど、どうでも……って」「ふふ……貴方は彼女と違って優しいんですね」「え…?」「………」「…おや、どうかしましたか次期店主。もしかして怒っています?」「……貴方は私を怒らせるようなことを言ってるつもりなのかしら」「とんでもない。下手なことをして貴方に嫌われるのはごめんですからね」「………」「…あ、あの~……」「はい」「…見逃してくれたりは……?」「まだ話し合いの途中ですので」「で…すよね……」「………」「……成程、記憶を欠けさせてしまったんですね」「えっ」「…通りで私に気軽に話しかけられるわけだ」「?」「よかったです。話し合いが穏便に済みそうで」「え、え?」「……王、彼女にここまでの事情を説明してくれるかしら」「私より貴方のほうが説明しやすいのでは?」「……私が下手なこと口に出して思い出りでもしたらどうするつもりよ」「その場合は……勿論処刑しないといけなくなりますね?」「ひっ!」「貴方も穏便に済ませたいのなら今どうすればいいのか、分かるでしょう」「…仕方ありませんね」王は短くそう呟くと、目の前に突然ふわりを浮かび上がった椅子に腰を下ろし、片手の鎌を緩く動かす。するとどこからともなくもう2脚の椅子が出てきてそれぞれ私達の横の地面へと止まった。「立ちっぱなしもなんですし。一度腰を下ろしてから話しませんか」「え……あっ、はい!」「………」 2/33/3他の話へ

『いつも通りを望んだあの子の日常は。』・・・3/3

 作:星喰(hoshikui)設定1/32/33/3 (ココ)他の話へ   「…逃げるよ」言葉にすると、一気に気持ちが定まっていく。いつまでもここにいたら…自分が自分でなくなりそうで怖い。だから、今は逃げるしかないんだ。この先にいる彼女と一緒に。……そこまで考えて、思わず笑みが零れた。こんなときでさえ私は自分の都合のいいように動こうとする。 …仕方、ないじゃない。 だって私には自分がどういう人だったか忘れてしまったんだから。…きっと思い出せばこの先にいる"彼女"とも上手く話が出来るのかもしれない。けど私は…怖かった。…そうまでして、ここまで生きてきた田中小町(私)を亡くしたくなかったから。これまでにあったたくさんの思い出を…私は絶対に亡くしたくない。「…忘れるのは、一回で充分」そう呟き…私は再び取っ手を握ると、そのまま扉を開けた。簡単に開いた扉の向こうから……再び光の集合体が私に襲い掛かってくる。私はそのまま扉の向こうを進み始めた。初めは光がたくさん溢れていて何も見えなかったけれど…進んでいくにつれ段々と地面がでこぼこしだし、周りが暗くなって、耳鳴りのような音までし始めた。それでも私は一歩一歩前に進む。雷が鳴り響き、小さな落とし穴に躓いても、立ち止まらずに先へ。 そうしてどのくらい歩いただろう。じわじわと額から汗が滲み、歩くスピードも落ちてきた。「……っ」…一瞬、足にぴりっとした痛みが走る。下を向くと、靴下が少し破けていて…その周りに、染みのような何かが広がっていた。構わずに前に進むと、今度はシャツが引き裂かれる。立ち止まって確認すると、腕に一本、二本と赤い筋が出来ていた。その軽い痛みに耐えながら再び進むと、今度は両足が金縛りにあったかのように動けなくなった。いくら手で叩き、腰を動かしてもぴくともしない。私は唇を噛んだ。「っ………」動け。早く。痛みを感じて早く動け。唇を強く噛んで、心の中でそう命令する。……確かに、私には田中小町じゃない別の人の記憶があるのかもしれない。だけど今このとき、私は田中小町として笹凪千登勢に会いに行くと決めたんだ。このままここに居続けるわけにはいかない。私は噛む位置を唇から舌へと移動させる。「………」 食事や会話の度に唇を舐める舌を一度歯で軽く挟んでみると、
ぐにゃりとした柔らかさが歯全体に伝わってきた。……これをなくせば、私は生きていられなくなる。いや、もしかしたら生きれるのかもしれない。…だけどこれ以上何かを無くしたまま生きることに、私は耐えられるんだろうか。 「………」…あの日。幼い私が事故に遭ったとき。私は私自身がどういう存在かを認識することを拒絶した。……幼い私がようやく周りを受け入れ始めた頃だったことも
あって、それは尚更だった。事故のあと、部屋で目覚めて私が最初に見たのは、千登勢の泣き顔だった。どうしてそこまで泣いているのか分からなくて、私は何度も心の中で自問自答した。 誰が千登勢をそこまで泣かせたの?…私は何をしていたの?これ以上泣いていたら、もっと頭がぼんやりするよね。何か冷たいものを持ってこないと。……でも、なんだか眠いな…。『……………』そのとき、千登勢は何かを言っていた。私はぼんやりする頭でそれがなんだったのか聴き出そうとする。…けれど深い眠気の所為で声が出せなかった。代わりに私の口からは一つ、二つと寝息が零れた。『……ん………な……』『………』  『…………なら、……のに』『いっそこまちが、』私が?そう思った瞬間一気に眠気が襲いかかってきて、私はそれ以上彼女の言葉を聴けなかった。……でも今ならあのとき彼女が何を言っていたのかくらい予想出来る。千登勢は……「……っ…!」初めてであったときのような暗い瞳に涙をいっぱい溜めて――私じゃない、私を呼んだんだ。助けて、辛い、と。私は今の今まで彼女の明るい顔色が彼女の素顔なんだとばかり思っていた。明るく、キラキラした瞳。ハッキリしていて、高く女の子らしい声。元気且つ行動力に満ち溢れた前向きな性格。 …全部、私とは違うものだ。そして……それは彼女だからこそ出来たことだ。だって彼女は……

―――私を、諦めていたから。 「……っぅ……ぁっ……ああ‥…っ!」それに気付いた途端、瞳がかっと熱くなった。きっとあの子の性格はそんなものじゃなかった!私が彼女の求めた私じゃないと知って、彼女は自ら忘れる努力をしだしたんだ!性格を代え、髪を括り、可愛い服装をし、声を高めさせ、表情を、作り… 「――こまっちゃん」……その作られた瞳で、私のことをそう呼んだ。意味が分かると同時に胸を締め付けるような痛みが襲いかかってくる。…本当にその通りの存在。――私は彼女にとっての"困ったちゃん"だった。記憶の底に埋められた本当の私がいないこの世界(場所)で、彼女は私じゃない私を求めていたのだから。 初めて彼女に出逢ったとき、私にはその記憶がなかった。同時にその頃は華那姉が亡くなって数年が経っていたこともあって私は私を無視し続ける彼女の存在を気にかけてしまった。…自分のことがあったからなのかもしれない。その頃の私は、もう周りに難色をつけることなく自分が置かれている環境を自然と受け入れられていたから。そして彼女との一部欠けた歯車が微妙な位置でかち合ったのは、あの桜の木の下だった。あの公園に行く度にそのときまでに生まれ、暴れていた感情の波が落ち着かせてくれた。それはどうしてなのか。…考えてみれば答えはすごく簡単なことだった。"あそこが私の元いた場所と、なんとなく似ているような気がしたから"ベンチに腰を掛け、公園を眺めている私と。樹海のようなウツシミの世界で、椅子に座り周りを眺めている私。 そのどちらもが重なり、死んでも尚私は私としてここに在るのだと分かったから。だから私は安心できた。決まりを破ってこの世界に廻った私は…生まれてから二年経つとすぐにこの世界を拒否し始めた。

視界に入ってくる全ての色彩を拒み、拒絶し……受け入れられずに一人で目も耳も口も閉ざした上に心まで閉ざそうとしていた。気分が悪かったんだ。
ここが自分のいるべき場所じゃないと。頭のどこかで理解していたからなのかもしれない。…そんな手も付けられない状態の子供の前に現れたのが、私と同じ存在の華那姉だった。幼い私のそんな状態を見て同情した彼女は、私の遊び相手になろうとした。親も、彼女さえも受け入れられなかった私はよく彼女たちに物を投げつけた。けれど泣き喚いて一人にしてくれと願いながら私が投げたものを受け止め、
彼女は私の元へ歩み寄った。そんなことを何回も繰り返し、ようやく私が落ち着いてきた頃…彼女は私に色(この世界)を受け入れさせようとしてきた。――けれどその時点で私は大体の色を受け入れ始めていた。 何故なら彼女も私と似た存在…記憶を失ったウツシミで。その記憶を呼び起こすことと引き換えに私がここを受け入れられているのだから。 通常…記憶を失った上で廻ったウツシミは新たな人間へ生まれ変わり、何の異常もなく人間として生きていられる。…もしも記憶を無くさずに廻った場合、生まれ変われるのかは怪しい。それにどんな人間に生まれ変わったとしても必ず何らかの"異常"を持ってしまうだろう。…幼い私がその一例だ。 自らの存在、そしてこの世界を認識してすぐに私は壊れてしまった。幼い子供が泣き喚くだけならまだしも……どんなものでも人に向かって投げつけ。壁紙を剥がし。床を足で蹴ってへこませ。……挙句の果てには窓という窓を全て割ってしまう。そんなことを幼い私は毎週繰り返した。……正直、精神が病む程度で済む話じゃない。眠りにつくまで続くそれに両親はよく耐えたと思う。病気や障害の疑いもかけられたけれど言葉や話も難なく理解できた上に受け答えもしっかりしていることから先生からはどこにも異常はないと診断さ(言わ)れた。…次に精神科医に連れられたときは酷かった。障害があるのかどうかを確かめられたときは相手の顔は見えず辺り一面真っ白な一室の中、電話で答えていたから難なく終われた。……けれどそこで私は目隠しをし、一対一でその人と話をすることになった。当然注意すべき点を親から伝えられていたとは思う。けどその人は油断して私の目隠しに手を伸ばしかけ―――私の視界に僅かな色を見せた。そして腕に触れ…次の言葉を口にされかけるより先に私は立ち上がり、自分が座った椅子に手をかけ、地面へ叩き飛ばした。恐怖の叫び声をあげながら、周りにあったものというものをその人にぶつけるように投げつけて叫び、投げつけ、叫び、投げつけ叫び投げつけ叫び投げつけ叫び投げつけ叫び
投げつけ叫び投げつけ叫び投げつけ叫び投げつけ叫び投げつけ投げつけ投げつけ投げつけ
投げつけ投げつけ投げつけ叫び叫び叫んで…そうして気が付いたときには見慣れた自分の、光も色も一切何もない古臭い部屋で眠っていた。意識を失う直前に見た、自分とは違う光溢れた目に暗闇が差しこんだ瞬間を思い出し、気分の悪さと共にあたりに吐き散らかした。アイマスクをしていたお蔭で私の視界にその色を入れることはなかったけれど…漂ってくる腐臭に更に気分が悪くなり、私は再び気を失った。記憶の混濁が始まったのはこの頃からだ。私は今まで華那姉とは保育園で出逢ったとばかり思っていた。…実際はそれよりも前に知り合っていて、その上彼女を傷付けることばかり私は繰り返した。だから彼女と出逢ったと思っていたあのとき、私は既に周りの色を多少受け入れ始めていたんだ。……同時に、彼女は私が自分を忘れていることよりも自らの記憶を取り戻すことを選択してしまった。そして、私と一緒にいることで彼女は自分の中にある"異常"を思い出してしまった。…彼女はこの世界から消えた。一緒にいた人も巻き込み……全て、無かったことにした。……周りを見渡してしまった彼女のあの言葉が耳に響く。『幼稚園でもたくさん友達作るんだよ。1人ぼっちにならないでね』『…きっと小町ちゃんならこの部屋(世界)に色が付いても大丈夫だよ』……彼女は私に、もう自分がいなくなることをその時点で伝えていた。けれどその意味が分からなかった幼い私は嫌な予感だけを抱え…
最後までそのことに気付けず彼女を見捨ててしまった。もしもあのとき彼女の死体を見ていたら、私も道連れにされていたんだろうか。結局私はあのあと彼女が亡くなった辛さに耐え切れず、彼女と作った思い出のいくつかを記憶の奥底へと沈ませた。"大切な人"から"昔よくしてもらった従姉妹"へと変え、彼女が亡くなったことに対して悲しく寂しい気持ちだけを残し、私は大事に大事にしていた彼女の思い出のほとんどを記憶の底へと放り投げてしまった。 ……その後、その空になった部分を埋める為に私は周りを受け入れだした。周りの景色も、こんな自分とは違う人間も、全てを見渡して――私は自らの中にあったもの全てを別のものへと映し替える。――そうして私は彼女の死と同時にそのときまであった自らの"異常"を捨てた。  ……こんなに歪な変わり様はない。きっと、私を大事に想っていた彼女なら喜んでくれることだろう。…けど私は。今そのことを記憶の底から引っ張って思い出した私は。……どうしようもなく辛くて、悲しくて、目の端や口内に溜まった
それらを無様に頬から床へと落としていた。そして思い出しても尚、相変わらずこの場は静かだった。誰も来ない。誰も来てくれない。…雪のような冷たさに満ちたこの場にいると、心まで寂しい気持ちで埋め尽くされそうになる。……涙で歪む視界の中に一つの影が浮かんでくる。それは無色透明で、瞬き一つすればすぐに消えそうなほど薄い影だった。私はじっとそれを見つめる。そしてその影へ向かってゆっくりと手を伸ばす。その腕を掴むと、手の中に暖かい感触が伝わってきて……ここにいる。私は直感的にそう思った。「千登勢」 私はその薄い影――千登勢に呼びかける。瞬間、足の痺れがなくなり、少しだけ周りが明るくなった。「………なあに、こまっちゃん」「…………」視界に現れた影が急速に彩られていく。じわりじわりと浮かび上がってくる顔とその声に、私はまた少し涙を流した。「こまっちゃんが泣くなんてよっぽどだね。何かあった?」「…………いい…」「………」「……もう……いい……から…」「何が?」「………私、消えるから………千登勢は…」「…どこに行くの?」「っ………」「………」「……………なんで、私と同じこと言うのかなこまっちゃんは」「え…?」「小町が原因であそこを離れたわけじゃないよ」「……じゃあ、」「…ほとんどは自分の為だよ。自分を守る為に私はあそこから離れて見てた」「……」「…ここに来たってことは、あの人にも会ったんだよね。どこまで聴いたの」「あの人…?」「小町が名付けたあの子のことだよ」「………」「………」「……夏休み、電話したでしょ……ほら、私が学校で…」「うん」「……そのときあかに、ここが繰り返しの中だって教えてもらったけど…」「………」「…それ以外はここに来るまで自力で少しずつ思い出した」「………そう。じゃあ薬利華那のことも思い出せたんだ」「……、知ってたの…?」「…見てたし、知ってるよ」「………」「…ねえ、そこまで分かったなら…ここがどういう場所か小町には分かる?」「…………。…記憶の、中…?」「…繰り返し、だから?」「………」……その声音に、頭の中が真っ白になって何も答えられなかった。さっきまでの明るかった声音が……暗く、ひんやりとした冷たさに包まれている。「……概ね当たり。でも正確には少し違う……ここは、」「ここは私自身の意識の底だよ」「……………」  「………ここまで言えば分かるかな。小町、私はね――死にかけてるんだよ」「……え………?」「そのお蔭で私は意識の底からここを夢見ることが出来た。だけど……」「ま、待っ…て。死にかけ、って……ど…ういう…」「自殺したけど急所は外したから……意識不明の重体… とはいえ結構日が経ってるだろうし、植物状態……悪くてもう死んでるんじゃないかな」「自殺って……なんでっ!?」「そんなの生きていくのが辛かったからに決まってるでしょ。私にとってあんな場所もうどうでもよかった。だから死んだ。それだけ」「……千登、勢…」それはなんでもないことのような、あっさりとした口調だった。私と千登勢の間にある空気が段々と変わっていくのを感じながら……私は、彼女を本当の名前呼んだ。 「………………日塔、彩希……」 「……それもあの人から聴いたの?」 「っ……」「…そうだよ。私の本当の名前は日塔彩希。小町は、…………小町だよね」「………」 いつか、同じことを聴かれた気がする。…私は、私だって。あのときは意味が分からなかったけど…… 私が………死ぬ前の、私なのか。…彼女はそれを知りたかったんだ。……そして、今も。「……私は、田中小町だよ」「………」 「清藤市で生まれ育った中学生で、千登勢や侑子達と一緒に学校に行って…程々に勉強して程々に遊んで、それでよく千登勢が騒ぎを起こす度に私まで巻き込まれて、その過程で侑子と出逢って……なんだかんだ思い返してみれば別に彼氏作らなくても 意外にわたし青春してんじゃんって思って……」 「………だから、絶対にこの思い出は失くしたくないの。
 …今まで出逢った皆と、"笹凪千登勢"の為にも」「…"笹凪千登勢"はもういないよ」「ううん、いる。私の目の前に」「違う。私は"日塔彩希"。……"笹凪千登勢"じゃない」「………」「…………じゃあ日塔彩希さん、ひとつだけ聞いてもいい?」「何」 「―――……本当に、貴方にとって"あんな場所"はどうでもよかったの?」「………」「…さっき私が記憶の中って答えたとき、概ね当たってるって言ってたよね。………なら、どうして私と一緒にいたときあんなに笑ってたの」「…それは」「自分の為?………自分の為を思うんなら私なんて無視し続けてればよかったんじゃない。…初めて会ったときみたいに」「………」「それでも私と一緒にいてあんなに笑って騒ぎを起こして、思い出までどんどん作って ……それで本当に"あんな場所"がどうでもいいなんて思ってる?」「………」「それでも貴方が日塔彩希だって言うなら、その通りなのかもしれない。……けど、本当に一欠片も"笹凪千登勢"だった気持ちはなかったの?」「……」「……貴方が日塔彩希だと言われても私は信じきれない。けどそれは貴方も同じだって分かってる。私がこんなに言葉で伝えても 伝わらない部分がいくらでも出てくると思う」「――だから貴方も話して、どうして自殺したのか。具体的にどう辛かったのかを」「………」「…………いいの、思い出すかもしれないんだよ」「…そのときは、そのとき。私の意思はそんなものだったって潔く諦める」「……」「けど私は今まで作った思い出と、千登勢のことを信じたいから。だからもし貴方の話を聞いても私が私でいられたときは、今私が言ったことに対してちゃんと答えてもらうよ」「………」  千登勢……ううん。日塔彩希さんは私の言葉に少し間を置くと、再び話し始めた。 「ここは何でも私の思い通りに出来た。…当然だよね、意識の底(夢)なら何でもできる」「……」「家族も大切な人も皆寿命を迎えるまで生きて。平穏で……現実の私が一番強く望んだ普通の日常。
 …だけどいくら平穏で有り続けてても叶樹(きょうき)だけは見つからなかった」……叶樹。おそらくそれが千登勢が望んだ彼女の名前なんだろう。私はその名前を頭に留めながら、彼女の言葉に問い返した。「夢の中なのに?」「………確かにここは私の夢の中だけど……そう都合よく上手く事が運んだことなんて一切なかった。…それに、もしそうなったら今私が見ているのは明晰夢(めいせきむ)ってことになる」「明晰…?」「睡眠中に見る夢を夢だと自覚した上で思い通りに夢の状況を動かせる夢のこと。…まあゲーム的に言えばチート技みたいなものだね」「明晰夢じゃないなら……ここって」「………」「小町も会ったんだよね。あの人……あか、に」「うん…」「…どうしてあかが私達のことを知ってたのか不思議じゃなかった?」「それは…」「まあ……この点に関しては私の話を聞いたら思い出すのかもしれないし後に回すよ」 そう言うと彼女は小さく息を吐き、長い長い昔話を話し始めた。   私が生まれたのはここにあったような暖かくて穏やかところじゃなかった。…まるで年中冷蔵庫に放り込まれてるくらい、空気が冷たいとこだったよ。私の親は生き物とか……そういう生物学的なものを研究する仕事に就いてて
……うんそう、研究員って感じ。二人共すごく頭がよくて日がな一日中研究以外のことは放棄してるくらいの生き物マニアでさ。私を産んでからもそれは変わらなくてね。だから自然と私は毎日家で留守番することが多かったよ。小さかったときは両親の部屋にあった本とか読んで気を紛らわせとかないと結構本気で寂しくて泣いちゃいそうだった。で、まあ娯楽なんて何にもないとこで親の研究に近い感じの本ばーっかずっと読んでたらさ、私も親同様に頭の出来が少しずつよくなってきて…幼稚園くらいのときにはもう小学校の勉強ほぼマスターしてた。読み書きも3歳で楽に出来てたかな。…まあこの話は別に信じても信じなくてもいいよ。……「千登勢」を見てたら、信じられなくても当然だと思うし。で、そんな他人から見ておかしかった私は当然周りからあまりいい目で見られなかった。幼稚園もそうだったんだけど、小学校って色んなところから同い年の子が集まる場所じゃん。だから結構子供ながらに期待してたんだよね。近所の子ばっか集まる幼稚園よりかは遠い場所からも集まってる子がいる小学校ならこんな私でも色んな子と仲良くなれるんじゃないか、って。……まあ結果はダメだったけど。何が楽しいのか同じ幼稚園で同じクラスになった男の子が突然教室内で私のこと色々脚色交えて悪いように話だしちゃってさ。
それで皆引いちゃってすーぐ私の近くから逃げてったよ。…今ならあれも仕方ないかって思えるんだけどね。
……けどあの頃の私はその男の子のこと消してやりたいくらい許せなかった。だってこれから6年もその小学校で過ごすんだよ。最初の第一歩は確実に踏み出したいと思うのは何も変なことじゃない。……でもそいつは私の一歩さえをも踏み潰して楽しげに先を歩いていくんだ。考えてみれば卑怯だよね。男の子なのに女の子みたいなせこいことして人の期待を平然とした顔で踏み潰してるんだから。 …けど、そのこともあって気付いちゃったんだ私。性別とか他人のあれこれとかは特に関係ないんだな、って。よく物語に出てくるヒーローは綺麗事や正攻法ばかり使って正々堂々と戦ってるけど……
――私がそのとき目にしたのは夢や希望で溢れたフィクション(虚構)なんかじゃなくて
紛れもなくノンフィクション(現実)だった。ただ、それだけの話。……あんな環境でも…
……ううん。だからこそ希望を高く持ちすぎちゃったんだ、私。結局それ以来学校に通えなくてさ。また昔に逆戻りして家に籠もってたんだけど
……小3くらいの頃かな。父の兄……私の叔父が家に来てね。色々と話を聞いてきたんだ。学校のことだったり、両親のことだったり……叔父の優しい雰囲気に吞まれてつい話さなくてもいいことまで話しちゃったよ。……でも叔父は雰囲気だけじゃなくて本当に優しかった。普通子供でも他人でもいじめられてること話したらも話したら面倒がるはずなのにさ。……叔父は私の話を聞いて泣いたんだ。まるで自分のことみたいに大人の顔をぐしゃぐしゃにして泣くからさ、子供の私まで泣いちゃって。……うん。本当に、いい人だった。……その頃私あんまり両親と話してなかったから、叔父のことをどこかお父さんみたいに思ってた。たまにそう呼んでみるとやめなさいって軽く怒られちゃったこともあったなあ…。叔父もね、お父さんたちと似た感じの研究してるんだ。っていっても叔父のそれは動物の病気とかそういうのを出来るだけ予防する術を探す為の研究なんだけど。  優しかった叔父は私のために周りのいじめのことを先生とかに話そうとしたけど、私は止めた。 色々達観してる自分が話すことが他の子とあんまり噛み合わないことくらいは
自分でもよく分かってたし、下手に騒いで周りがまた離れて行くのを見るのは嫌だったから。それにそのときはまだ両親が私より研究に忙しかった時期だったし…
誰かに苛められていることを突っ込まれるのも面倒でさ。もしそんなことされて結果大人なんて…ってそんな言葉でもう誰かを片付けたくなかった。……叔父っていう希望を、周りにいる大多数のゴミのように思いたくなかった。それから2年くらいは学校に行かないで叔父の手伝いばっかして過ごしたよ。ただ、叔父は学校のことをすごく心配してくれてたから手伝いがなくて暇なときに中学課程までの飛び級試験を受けた。…その結果余裕で合格して少なくとも小中学校までの心配はなくなったよ。…まあ、叔父はあまりいい顔しなかったけどね。……子供は遊ぶことが仕事だってよく言ってた人だから。でも正直五月蝿いゴミばっかりいる学校なんかより叔父の私室のほうが有意義に過ごせた。だって周りの言葉に一々反応しないで済むから。面倒だったんだよね、
相手の幼稚なからかいを塗り潰す(言い返す)のって。園児以下の暴言も吐かれたときはもう阿呆らしすぎて。思わずそこにあった花瓶で窓ガラス割っちゃったこともあったなあ。うん、すごく綺麗に割れたよ?暴言吐いた子もびびっててあれには笑ったな。面白くなって難しい言葉で罵倒したらすごい顔歪めちゃってごめんごめんって必死に謝ってきて。つまんなくなったから、花瓶に残ってた水その子の顔にかけてあげたよ。今までの恨みを〜っていうのは全然なかったなぁ。だって本当につまんなくなってかけちゃったんだから。結局のとこ、私は周りで騒ぎ立ててる人と違ってハッキリしすぎた人間になっちゃったんだなってそのとき気付いたよ。欲や感情に忠実過ぎる、って言えばいいのかな。親も親なら自分も自分だってね。それが本当につまんなくて、だから学校に行きたくなかったんだよ。…だから叔父の仕事に付き合ってるときはいつも楽だった。周りは子供扱いしてくるけど気にしなければどうってことないし、新しいこと知るのはすごく面白かったから。
叔父もお菓子くれたり色んな話を投げかけてくれて………………ほんと、あのときはすごく幸せだったなあ。  …それから数ヶ月経った頃、優しかった叔父が亡くなった。私を見ることも、話しかけてくれることもなく……
ただただ眠るように。抜け殻だけを残して叔父はいなくなった。……でも私は叔父が病気持ちじゃないって知ってたしすぐに亡くなるような傾向を見たこともなかったから何かあって叔父は死んだんだって思って、私はしらみ潰しに色んなもの調べた。仕事の書類から彼が口をつけたものまで洗いざらいに。……それで、ようやく証拠を見つけて……一層気分悪くなったよ。誰がやったのかも特定できた。………ただやり方が陰湿すぎて吐きたくなるほど気持ち悪くて。 「………」頭の中に見慣れない葬儀の会場が映る。
次いで泣きながら何かを叫び散らしている女の子の姿が… 「っ……」頭の中を鈍い衝撃が走る。じくり、と何かに浸食されていくような……。私はその痛みを唾を吞みこんで耐えた。「葬儀のとき、叔父の横で泣いてた私をその男は五月蠅いと言って蹴り飛ばした」「………」…彼女の声音が一層低くなったことに息が詰まる。「その男は叔父と面会していたときに紅茶に毒の入った粉末を混ぜて出したんだ」「…きっと叔父が倒れた後は飲んだカップでも入れ替えたんだろうね。だから警察は現場を調査しても何も動かなかったし気付きもしなかった」「……じゃあなんで千登……日塔さんはそれに気付いたの?」「…言ったよね、私叔父の手伝いしてたって。その男が1人だけで何かするのなら何かあるんじゃないかと思って叔父が亡くなるまでの数日の色んなデータを漁ってたら粉末を入手したデータが見つかった」「……」「…粉末に書かれた症状を見て、私はそいつを殺そうと決めた」「………え」「そいつの職場で火事を起こしたんだよ」 「………」   『じゃが話はここで終わりではない』『えっ……』『事件の進捗がないままの状態が続くと、当然彼女らの親は警察(彼ら)に任せきれないと考えた』『 …じゃからある日遠縁がいるいう研究所を訪ね、これがどういう現象なのか親達は調べてもらおうとした』『…結果は、でたの?』『……』 『……いいや出なかった』『――――当日その研究所は火事に見舞われてしまったからな』  「………………」『我が話したあれは、実話じゃ』「千登勢が…殺したの……?」「そうだよ。ここじゃないところで殺した」「……」「…勘違いしてるみたいだから言っておくね。――現実の火事で亡くなった人の中に薬利華那の両親もその友達の両親もいないよ」「え……」「ここ(夢)で火事を起こしたのは私じゃない。確かに、現実の私はそいつを殺したいほど憎んで火事を起こしたけど…私は殺人鬼じゃないから。夢の中でまで人を殺したいとは思わないよ」「…それよりも、小町やその薬利華那が"ここにいること自体"がおかしいんだから」「…おかしい?」「………話が途中だったね。戻そうか」「え、でも」「私が自殺した理由を知りたいんでしょ?」「…っ」「どうせ私が今言ったのは簡単に分かることだし、あとで話したほうが楽だよ」「…分かった」 私が頷くのを見て、彼女は再び話し出した。 「叶樹と出会ったのはそのあとだった。私がその男の息子を殺そうと追いかけ回していたときに」 「えっ、なんで…」「…叔父の葬儀のとき、息子が私に謝ってきたんだよ」「………最初はその男が蹴り飛ばしたことについてかと思ったけど、違った。…あれは"男が叔父を殺そうとしていたことについて知っていた"表情だった」「……息子さんって…」「私と同い年だよ」「だ、だったら仕方な」「いくら小3でも殺人を誰かに教えて止めることくらい出来たはずだよ」「…でもお父さんでしょう?その人にも何か事情があって止めきれなかったってことは」「事情があったら殺人を止めないの? 家族が罪を犯すことよりも身勝手な恨みを晴らさせることを優先したって?」「…っ」「…修叔父さんがいなくなって……その男が焼け死んだ後も、私は両親や叔父の私室から何匹も小動物を連れ出してはこの手で殺した」無感情の声でそう言って、彼女は感情的に地面を叩いた。「それでも足りなかったんだ!! 刺して潰して抉り出して潰して踏みつけてぐちゃぐちゃにしても足りなかった!!」「な、……なんで……なんでそんなこと…っ!?」「………」「……ひとじゃなかったからかな」「……!」「…なんて。さっき殺人鬼じゃないって言っておきながらたまに感情が高ぶると殺したくなるんだよ。我慢してるけど」「……」「でも安心してよ。私に小町は絶対殺せないから」「え…?」「………叶樹がさ、あの日私に言ったんだ。
 ――『殺せないんでしょ』って」「………」「何度も何度も繰り返して言うから、苛々して叶樹も殺そうかと思った。一旦ナイフ仕舞って、油断させた隙に首でも絞めようかなって」「でもそのあと叶樹は私がしたことに"つまらなくない"って訊いてきて……それで気付いたの」「…ああこの人は私の心も、心の裏側にある理性的な部分をも見透かしてるんだなって」「……」 「私に殺せないって言ったのは、この手が殺しても殺しても殺し足りていないってことに気付いていて」「…私につまらなくないって訊いたのは、その足りない部分をいつまでも埋められていないってことを暗に指摘していたんだ」「……その上、感触とか味わいたいなら別になんて言われたら嫌でも何もかもを見透かされてるんだなって気付いて一気に殺す気が冷めた」「…じゃあ……息子さんは無事なの?」「…私が叶樹と会話してる間に逃げたよ。……そのあとで見つけたから殺すはずだったんだけど」 「えっ…!」「…殺ることがどうでもよくなったから」「………どういうこと」「…あれから私は叶樹と一緒にいるようになって、小動物を殺すことも減った」「普通の人からみればもう既におかしく見えてるんだろうけど…それでも学校にまた通って、馬鹿して笑ってる他の同い年の子のように叶樹の傍で一緒に遊んだり笑ったりすることが増えた」「叶樹にも色々あったからそれにも付き合ったり…………本当にあのまま一緒にいられたらよかったのに」「…何か、あったの?」「……………」「………………………叶樹が、いなくなるって、言うから」「え……?」「……転校はしないし、死ぬつもりもないけど、……もう"ここにはいられない"って」「………私と話すことも、一緒にいることも出来ないって」「…日本から離れたの?」「……そういう、ことじゃない。それだけなら私も叶樹を追ってる」「……」「……………ここまで来てもやっぱり思い出さないんだ」「え……?」「……」「……いいよ、降参。…認めるよ……小町は小町だって」「………」「……あのさ、一つ聞いてもいい?」「なに」「私はその……叶樹さんって人だったの?」「………そうだよ。――冠奈川叶樹、それが小町がここに来る前の名前」「…冠奈川」「義理の娘だって。叶樹もそう言ってた」「……先、生が…?」「………あの人が私を夢の中に居続けてくれたんだよ」「それって…先生の所為で千登勢が」「殺されてないよ。何度も言うけど私は自殺した。そのあと夢の中(ここ)であの人に会って…ずっとここに居られるようにしてもらったんだ」「…叶樹さんとのことがあったから?」「………」「ねえ、なんで千登勢はそこまでして叶樹さんに執着してるの?…寂しかったから?」「………」「………同じ、だったから」「…同じ?」「何かを殺したい欲求しかなかった私と」「………」「葬儀の日……あの男にも言ったけど、同じ言葉を返されたよ。……私は人形みたいだって」「そんな………そんなことっ」「確かに私に感情や意志はあったよ。……けどあの頃それを表だって出したことは叔父の前ぐらいでしかなかった」「…それを思えば、人形と対して変わらない」…だから自棄になって小動物を殺してたのかもしれない。
千登勢は掠れたような声でそう呟くと、顔を俯けた。「……殺すことに慣れたんだ」「………」「毎日一つくらい殺さないと自分がどうにかなりそうでさ」「千登勢……」「これで私の話はおしまい。………………還りたいならあっちへ行くといいよ」言って、千登勢が私の道の先を指差す。「帰るって……まだ私の話終わってな」「……他に何を聞きたいの」「何…って……」「私がどれくらい叶樹に執着してたかなんて教えたところで小町は分かってくれる?」「それは…」「…それとも私がどうやってあの火事を引き起こしたのか聞きたい?」「ちが…」「じゃあこれ以上何を知りたいの。…私の口から何を言ってほしい?」「ここは夢だって、今までのこともおかしな現象だって片付けてほしい?」「そうじゃな――!」「だったら早くここから出てってよ!! 叶樹じゃないお前なんてここには必要(いら)ないんだっ!!!」 「…っ………」  その強く激しい感情を伴った拒絶に私は一歩後ろへ下がった。……初めて見るそれに驚きと、ナイフのように吐かれたその切れ味の良さが混ざり合って胸の奥から急激に悲しみが押し寄せてくる。…分かっていた。千登勢が私を望んでいないことは。彼女と話している間中頭の中で何度も繰り返して分からせていた。…けど、直接言われると……頭で分かっていても、苦しかった。(………でも…)確かに聴きたいことは訊けた。彼女の言う通りここから帰っていけばまた元に……。元の場所に、戻れる?私は元のあの家に戻れる?……あの日常に?「…千登勢」「………」「……一緒に帰ろう」「………」「…おじさんもおばさんも心配してる」「………」「うちの親だって、岳兄も心配して探し回ってくれてるんだよ。それに侑子も」「……それが」「………」「……ここは夢だよ。いくら心配してくれたところでそんなの」「っ!!」私は、それを聴き終えるよりも先に彼女の頬を叩いた。 「…ぃった………」「…………夢だから、って何……」伝わらない苦しさばかりが募り、悲しくて涙声になりながらも私は訴える。「都合良く夢だからって……自分を心配してくれる人の気持ちまで嘘みたいに片付けようとしないでよ…!」「……」「ねえ千登勢、本当に千登勢の近くには叔父さんや叶樹さんしかいなかったの?「…違うでしょう。他にもいたよね。きっとあんたが目を覚ますのを今か今かって待ってくれてる人がいるんだよ」「そんな人……」「じゃあなんでおじさんとおばさんはあんなにあんたの帰りを待ってるの。うちの親も、岳兄も、侑子も、私だって!!」「私だって、早く帰ってきてほしいって思って……っ……………」「………」「必要(いら)ないなら、出会ったときのまま私を無視してればよかったじゃない。なんでずっと一緒にいたの。なんで…っ……」「…………」「気持ちなんて分かるわけないじゃん…………私は叶樹さんでも千登勢でもないんだから……!!」「私は田中小町だ…っ!!笹凪千登勢を心配してる幼馴染なんだよ!!!」襟首を掴み、ぼろぼろになりながら私は自身を自身だと強調する。…そのときだった。「―――そうね、歳も性格も違う。安心なさい、百歩譲っても貴方は絶対私じゃないから」……後ろから凛とした声が響く。驚いてそのまま振り帰ると……そこには長い黒髪の女の子―――あのときの、生徒会長が立っていた。 『いつも通りを望んだあの子の日常は。』 ・・・  END  NEXT ・・・ 『いつも通りの日常は。』  *今月頃更新予定 *    *この物語はフィクションです* 作中に出てくる人物や名称等は架空のものであり、実在の団体や組織、事象とは一切関係ありません。また、特定の思想や行動を推奨するものではありません。2/3他の話へ