「いつも通りの日常は。」・・・3/3


作:星喰(hoshikui)


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「…見つけたぞ!」

「っ!」


低い男の声。

……心から凍り付けられたような心地のまま顔を上げると、 さっき私達に襲いかかろうとしていた男の人が遠くのほうに見えた。


「……あとは向こうでしっかり聞くから。今は出口まで走るわよ!」

「っ…」

「待て!!」


頭が熱でぼやけたまま二人の少し後ろのほうを走っていると、叶樹さんの手が私を掴み、引っ張られる。


「っ…彩希!この子引っ張って先に行け!!」

「…叶樹は!?」

「少しあれの相手してからすぐに追う!…貴方もぼやっとしてないで早く彩希と一緒に出口に向かい…なさいっ!」

「っ…!!」


言葉と同時に彼女の手が離れたと思った次の瞬間、私の腕を千登勢が強く掴んだ。喉の奥が急激に冷たくなるくらいの勢いで彼女と一緒に走っていると…後ろのほうから甲高い金属音が聴こえてきた。

……心配になって視界だけ後ろに向けようとすると、真剣な叶樹さんの声が響き渡る。


「振り向くな!!走れっ!!」


思わずびくっとなって向きかけた視界を元に戻すと、 私は脚力のない足に鞭打つように息を切らしながら走った。けど、出口まであともう数歩のところで……私達は立ち止まる。

出口の前に大きな大きな―――鎌が見えたから。 


「数分振りですね」

「………」

「…誰?」

「……なるほど、貴方は笹凪千登勢……いえ、日塔彩希さんと言ったほうが正しいですか。…挨拶もせずに勝手に入ってしまい申し訳ありません」

「……」

「そちらの彼女に少し用があるのですが……引き渡していただけないでしょうか」

「……ふうん」

「…ち、千登」


納得したかのようなその声に私を引き渡す気なんじゃないかと冷や冷やしながら彼女を呼ぼうとすると、彼女は見たこともないほど冷たい目で彼を見返した。


「あの叶樹が妙に焦ってたから何かおかしいなとは思ってたけど……そっか。……避けたがってる相手なんだ」

「?」

「勿論引き渡していただけるのであれば"私達"は早急にここを出ます」

「ですが……後ろで振り回されている"彼女"、いつまで持つでしょうね」

「持つに決まってんじゃん。あの程度なら私でも…」

「――――っく……ぅ……っ!!」 


切羽詰まったような声に振り返ると、叶樹さんの首や腕のあたりから血が飛び散っていた。


「叶樹さんっ!!」

「………」

「一つ、面白いことを教えましょうか」

「私達の存在は人間にとって言わば空気のようなものです。視えないから相手にされない。相手にされなければその分その時々で 自分がどのようなことになっても気付かれない」

「そう、私達のような存在が消えるに必要な条件は――ただ骨や血肉を切り離され血を流すことだけではないんですよ」

「っ……」


その言葉に一瞬八野先生が思い浮かんで、息を飲みこむ。

……あのとき……気を失う前に見たとき先生は倒れていて……地面に何かが流れていた。

血の色とは明らかに違う、おかしな色。 それがペンキや絵の具だったらまだ分かる。

……でも。


「そして私達が存在しえるのに必要なのも、人間のそれとは違います」


『……無事よ』

『え?』

『八野由紀也なら無事よ。安心なさい』

『そう……なんですか……?でもあんなに血が…』

『…どうせ役職の奴らに絡まれたんでしょう。貴方も同じ場所にいたのなら大方間違えたんじゃないの』

『おや……』

『役職持ちは人間に危害を加える存在じゃない。そうよね?』

『はい。もしもの際の対処法ならそれぞれ分かっているはずですから』


――あのとき微かに鉄臭い匂いが鼻についたのをどうしても"気の所為"とは片付けづらい。 


「…だったら何。後ろの雑魚が不死身だから叶樹は死ぬとか?」


……ぞっとするほど冷たいその声音に、思考から現実へと引き戻される。


「不死身かどうかなんて関係ない。誰かを消すのにそんなくだらないことどうだっていい」

「………」

「パッと見たところ直接誰かを殺したことなさそうだし、…折角だから私からも一つ教えてあげる」

「殺すのに必要なものなんて―――無いんだよ」


言葉を挟めない程の冷たい空気が場を覆う。どうすることも出来ずに叶樹さんのほうへ視線だけを向けると…… 誰が見ても分かる程に彼女は血に塗れていた。その姿に息を吞むと、彼女は再び彼からの攻撃を避けるように動きだしていて。


(も、……もうやめさせないと……これ以上は……叶樹さんが…っ!) 


「………だからきっと私のことも殺したんだろうね」

「え…?」


混乱している私の耳に微かな呟きが入りこみ、一瞬思考が止んだ。


(殺した、って……) 


「どっちが人間らしいのかくらい見れば分かるでしょ。……例え不死身でもそのあたりは消せなかったんだろうね」

「だったら叶樹は死なない。…元々人間染みた存在(人)なんかに叶樹は向いてないんだよ」

「――化け物、だからね」


最後に呟いたその言葉に、私は酷いとは言えなかった。だって―――


『………同じ、だったから』


『何かを殺したい欲求しかなかった私と』


私の見知った表情や優しい声音で、同じようにそう言ったから。


「…なるほど、引き渡してはもらえないようですね」

「バトる前に質問してもいい?この子に何の用でそんな物騒なもん構えてんの」

「貴方には関係ありません」

「関係あるね。叶樹の知り合いは私の知り合い。友達なら友達って具合に私と叶樹は密接な関係だし」

「…それに知りたがってるのは私だけじゃないと思うけど?」 


そう言うと千登勢は私を一瞥したけれど、すぐに視線を彼へと戻して続けた。 


「どっちにしろ早くしたほうがいいんじゃない。叶樹を追い詰めてもあんたにとって恐ろしい結末しか待ってない気がするけど」

「彼女は罪人なので、処刑することになりました」

「罪人?」

「えっ……でもさっき――」

「貴方はまだ私に話していないことがあるはずです」

「……?」


話していないこと、と言われても…… どうして私は彼から罪人呼ばわりされているんだろう。


『見逃しますよ。――だって貴方は私を忘れているのですから』


『このままあの人と話を続けでもしてみなさい。……会話中に記憶を思い出しでもすれば―――確実にあの人に消されるわよ』


私は彼のことを知らない。自分がなんで危険を冒してまで廻ったのかも。 もしかしてこれは……思い出させる罠、なんだろうか。 私は静かに息を吐いた後、唇をきゅっと結んで彼の質問に答えた。


「ごめんなさい、分からな…」

「そんなことはない、貴方は知っているはずです。――日本小恵子さんのことを」

「?」


突然知らない名前を出され、本当に不可解な声をあげた私に構うことなく彼はこう続けた。


「秋涼駅です。覚えていませんか」

「……あ…」



その言葉に、あのとき掴んだ手の感触を思い出した。

確か、あのとき……

あの………とき、は……。


「………」

「貴方はウツシミでありながら死ぬはずだった彼女を助けてしまった。…それが貴方の罪です。だから私は貴方を処刑しなければなりません」

「――同じウツシミとして、私達の重大な"決まり"を破ったことを後悔させる為にも」

「……ち、違う……っ……あれは、華那…姉で………」


(あ、あれ。おかしいな……なんか………頭が……熱い……)

(…あのとき掴んだ手の向こうにいたのは華那姉だったはず…そうだよ………そう……)


ざらざらとした砂が貼り付き少しずつ彼女の姿が歪んでいく。


(ようやく助けられたんだ……私は、彼女に感謝の言葉一つもろくに言えてなかったから…………だから……)


その姿はゆっくりとこちらを振り返って―――


「罪が何?」


…落ち着いた声に、今思い浮かんでいたことが全て溶けていく。

それから声のしたほうへ振り返ると……血塗れの彼女が今にも倒れそうな状態のまま立っていた。


「廻ったウツシミならもう人間でしょう。…人が人を助けることの何が罪よ、馬鹿じゃないの」

「………」


…会話している二人から少し視線を外し、周囲を伺うものの、 私達に襲いかかろうとしたあの男の人はどこにもいない。そのことで私が不安がっていると、彼女が千登勢に向かって何かを投げてきた。


「遅い」

「ごめん。出せるか分からなかったから」

「……?」


小さかったこともあって、それがなんなのか分からずに状況を見ていると…


「これでっ…終ーーーわりっ!!」


千登勢は足元にそれを落とすと……あろうことか踏ん付けた。

ガラスが割れたような音が場に響くのと同時に、足元から枝を伸ばすかのように周囲の景色が真白くなっていく。


「……これは…」

「最終手段(奥の手)を取らせてもらったわ」

「……」

「さて、どうするの王。…これでも彼女を止める?」

「………」

「……………分かりました。ここは引きましょう。あとのことは任せましたよ、店主」

「ええ。……今回のこと、悪かったわね」

「………」

「……貴方も変わりましたね。どなたの影響ですか」

「…さあ。私も知らないわ」

「ふふ…」


王が笑いながら私のほうへ視線を向ける。

それに少し身構えながら私が視線を投げ返すと、彼は私に背を向け一言。


「今度は正しい廻りになるといいですね」

「……」


それだけ告げると、王は遠くへと去って行った。 危機がなくなったことにホッと胸をなでおろしつつ私は彼女のほうを振り返って――


「あの、本当に大丈――……えっ?!」


そして驚きの声を上げた。

だってそこには……さっきまで血塗れだったはずの彼女が傷一つなく立っていたから。


「…何、どうかしたの」

「え、えっと……傷、大丈夫かなって思ったんですけど……」

「ああ。平気よ、なんともなかったから」


あれだけ血塗れになっておきながら"なんともなかった"は おかしいような気がするけど……。

まあ……さっきの王の話も自分のことに関しても、半々で理解しているようなものだったし、これ以上聞いたところで私には理解し辛いのかもしれない。

私はそう思って追及せず、これからどうするかを二人に聞くことにした。


「そういえば……さっき最終手段とか言ってましたけど…  あれって一体なんだったんですか」 

「………」


彼女は少し悩むような素振りを見せ……けどすぐ諦めたかのように口を開く。


「王も話していたけど、ここに廻って来たのは貴方一人じゃないのよ」

「あ…」



『……貴方が私達の世界における門を潜る際、もう三人いたとの報告を受けています。自分が誰と一緒だったのかは分かりますか?』


「人間の意識間に廻るなんてこと貴方一人だけなら確実に無理だったはずよ。…もし廻れたとしてもいずれ歪(ひず)みを起こして数年も持たずに消える」

「……自由に行き来できる現世じゃない分、ここは非常に危うい場所だから」

「それでもそんな貴方が今もここで生きている理由は、一緒に廻った他のウツシミと近しい存在になっていて、  且つここを形作った本人(彩希)の近くにいたこと」

「あとは………貴方が思い当たっていたその人からの助けを彩希が受けていたはずよ」

「先生から……?」

「…私もその人の気を辿ってここに来たの。さっきみたいな奴らに絡まれたこともあって少し来るのが遅れたけど」

「そうだったんですか……」

「最終手段っていうのは、その途中で手に入れた"鍵"のことよ」

「鍵?」

「ここに向かう前から私は彩希だけが助けを受けているわけじゃないってなんとなく知ってた。…本人に近しくないウツシミだと記憶の障害を起こして消えてしまうケースがより高くなるから」

「でもあの人からの助力を得ていれば話は別よ。……まあ、実際は盗まれてたんだけど」

「盗まれた?」

「そう、店の物品をね。無人のときに勝手に盗まれて。…無用心だったとはいえあそこは普通の人間には見えない仕組みになってたから気が緩んでたんでしょう」

「あの人はいつも緩みっぱなしだと思うけどねー」

「………」

「まあ、それが貴方と一緒にここに来たウツシミか、別の者かは分からないけど……ここが明らかに変わっていったのはそれからよ」

「……本来なら私は貴方が何らかの症状を引き起こす前に貴方を消すつもりだった」

「っ…」

「貴方、拒絶症状以外に何かなかった?」

「…………それは…」

「……その様子だとあったみたいね。…じゃあ質問を変えましょう。――その症状が"なくなった"のはいつ頃」

「……華那姉が、亡くなった後、くらいから…」

「…やっぱり、知り合いだったのね

 「……え?」

「さっきその人が亡くなってから症状も消えたって言ってたけど、周りに盗んだ人がいたってこと?叶樹」

「……そうね。…結局鍵は見つけられなかったけど」

「え……でもさっき千登勢が…」

「だから最終手段よ。本来ここは彩希の意識下だから彩希が願えば鍵は簡単に見つかる。……本人が意識を取り戻したいと願えればの話だけど」

「色々と邪魔が入ったから、もうなりふり構っていられなかった」

「そうだったんですか…」

「……あの……華那姉は……」

「聞かないで」

「……」

「貴方が他のウツシミのことを探ったところでいいことなんて一つもないわ。……現にさっき思い出しておかしくなりかけたでしょう。今までもそうだったんじゃないの」

「これ以上の話をしたところで日常に戻る貴方には全て関係のないことになる。それでいいじゃない」

「…分からないことを分からないままで済ませるのは別に悪い事じゃない。世の中には自分が知りたくないことを知らされることだってあるんだから」

「………」

「叶樹の言う通りだと思うよ。…見たとこ、君って人のことはよく心配してそうだけど自分のことになるとからっきしなんじゃない?」

「過剰な好奇心は身を滅ぼすって言葉くらいは知ってるよね。五体満足に済んでるんだし、これくらいで留まっておいたほうがいいよ」

「じゃないと―――いつか本当に壊れるよ?」

「っ…!」

「彩希」

「はーいわかってますよーお口チャック」

「………、とりあえずもう帰りましょう」

「……帰るって、どこに…」

「それぞれの場所に」

「………」

「…彩希、貴方は先に戻ってなさい」

「戻る?」

「ええ。……さっき壁や鍵を出したときと同じ方法よ」

「ん、分かった。叶樹、待ってるね」

「……………、ええ」 

「ええっと、小町だったっけ」

「!」

「ばいばい?」

「…………」


そう言って手を振った千登勢は私達に背を向けると透けるように消えていった。

消える一瞬、彼女に向かって手を伸ばしたけれど……その手が彼女を捕えることはなく、空気だけを掴んだ手がだらんと垂れ下がった。


「………貴方についての記憶が消されたことを、私は悪いと思わないわ」

「……」


その様子を後ろで見ていた叶樹さんが呟く。……私はそれに振り返ることなくに彼女が消えていったほうをただぼんやりと見つめていた。


「貴方は知らなかったでしょうけど彩希の私への執着は大きかった。…私も気付いてはいたけど、まさかここまで大事になるとは思わなくて……」

「本来ならあの子が謝るべきなんでしょうけど、そうさせてしまった私も私よね……。それだけは貴方に対して悪かったと思ってるわ。ごめんなさい」

「………謝らないで、ください」

「………」

「…謝っても、記憶が戻るわけじゃないんでしょう……」

「………そんなことされてもなんだか惨めだし……だから、もう」

「貴方に対して私に出来ることは分裂させることだけだった」

「……」

「そこから貴方がどんな風に人生を謳歌するのかは自由よ。…もうこんなことに巻き込まれる心配もない。それだけは約束するわ」

「………」

「……聞いてもいいですか」

「……ええ」

「叶樹さんにとって、千登勢はどんな人だったんですか」

「マセガキ」

「……」

「その上我侭。……でもその我侭の具合がおかしくて、嫌いになれない。彩希は私を同類と見てたけど……根本的なところで私とは全然違う」

「……そんな彩希が、少し羨ましく思うこともあった」

「………」

「私からも一つ質問してもいい」

「…はい」

「――もし彩希が人を殺そうとしたら、貴方は止める?」

「………」

「…………………………止めます」

「どうして」

「……人を殺してほしくないから」

「その人が彩希にとって憎むべき相手でも?」


『……修おじさんがいなくなって……その男が焼け死んだ後も、私は両親や叔父の私室から何匹も小動物を連れ出してはこの手で殺した』


『それでも足りなかったんだ!!  刺して潰して抉り出して潰して踏みつけてぐちゃぐちゃにしても足りなかった!!』


「例え、そうだったとしても………殺してしまったらその人と何も変わりません。……同じ苦しみを繰り返したところで後には悲しみしか残らないんです」

「千登勢にはもうそんな苦しみを味わわせたくないし……私もそんな千登勢、見たくない」 

「………」

「……私なら彩希の好きなようにさせるわ」

「…えっ……」

「綺麗事を繰り返すだけじゃ人は何も学べないから」

「…だ、からって…………千登勢が人を殺してもいいって言うんですかっ!?」

「ええ」

「っ……なんで…?」

「途中までは貴方と同じ理由よ」

「え……」

「……彩希がどうするか。それを決めるのは私じゃない。彩希本人よ。いくら周りが止めたところで自分でどうにか出来ないんじゃ、彩希は何も学べない。痛みも知れないの」

「でも殺人を許してしまったら千登勢は…!」

「……ねえ」


怒りが止まらない私の言葉を、冷えきったその声が止める。一瞬怒りでいっぱいだった思考が途切れ、その直後……彼女の表情を見て私は喉をひくつかせた。

……それは……笑顔でも悲しみでも怒りでも苦しみでもなく――― 全ての感情を削ぎ落としたかのような、無表情で。

…その赤い瞳の中に映った私が、まるで動揺したかのように小さく揺れていた。


「…人を殺めるとどんな気持ちになるか、貴方は知ってる?」

「え………」

「一度刺すと、誰が何を言ってももう止まれないのよ。どんなに鈍い感触でも、悲鳴をあげられても、何度反撃を受けても、二度、三度と続けてしまう」

「どうしてか分かる?…死にたくないからよ。自分はまだ生きていたいと願うからよ」

「人は、生死に関して無知過ぎる。簡単に死にたいと嘆く人もいれば実際に自殺した後で勝手に後悔してる馬鹿もいる」

「…それなりな理由で殺し殺された人もいるけれど、総じて共通するものがあるのよ」


彼女はそこまで言うと……私には計り知れないほど強く、怒りでは表しきれないほどの声音を乗せて。



「――私はそれが嫌い。それを見るのはもううんざりよ。…正直、貴方の発言もそれが染みついていてすごく気持ちが悪いわ」


「…っ……」



まるで地の底を這いずっているかのような、酷く、冷めきった声で。


「その上で……周りに影響されかけてる、"自分(私)"も、私は好きになれない。本当……私だって、死ねるなら死んでやりたいところよ」

「けど……私には約束があるから」

「だからどんなに苦しくても、辛くても、痛くても―――私は死ねないの」

「……」

「…私と違って他人に情を向ける余裕が、貴方にはある。それは貴方が人間である何よりもの証よ」

「だからここから出て、日常に戻ったら……ここであったことは忘れて、人間らしく生きなさい」

 「――それが、"貴方"の望んだ日常でしょうから」

「……貴方、は」

「……」

「…貴方も、それを望んでいたわけじゃないんですか?」

「……どうしてそんなことを聞くの」

「……」

「…………今更、普通に生きることなんて出来るわけないじゃない」

「えっ…」

「…そろそろ時間ね。私ももう行くわ」

「ちょっ……待って―――!」


止めようと手を伸ばすと…指の先から白い光が溢れ、どんどん強くなっていく。


「…………」

「叶樹さん――っ!!」

「………………」

















「…………さようなら、もう一人だった私」



















…………………………。

………………………。

……………………。

…………………。

………………。

……………。

…………。

………。

……。

…。







さて、この話をする前に今話している私の紹介から始めるとしよう。こほん。私の名前は田中小町……

今平凡な名前だと思ったそこのお前。今日うちの夕飯の材料にして両親に食べさせてあげるから覚悟してなさい。話を元に戻そう。私は私立清藤中学に通う極々普通の…四月からは中学三年生になる。






 『可もなく不可もなく……あ、でもでも彼氏持ちの貴方!  今日は彼氏と一緒にいるとちょっぴりいいことあるかもっ!』


「………」




それでも……こんな私でも可愛い話が出来なくても彼氏は欲しい。

…心の隅にある程度の密やかな憧れだった。少女漫画みたいな恋をして、キャッキャウフフと笑い合い色んな障害を乗り越えながら、 それでも一緒にいてくれる人……。

……間違ってもこんなこと周りには絶対言えないけど。

(それでも私もいつか誰かと恋して、そんでもって彼氏作ってみたい…)

それにこんな平凡な毎日に飽いてキラキラした時を一日でも良いから過ごしたいと 願うのは何も私だけじゃないと思う。……多分。

大きく夢見すぎな感じは若干あるけど……まあ夢は大きくあるほうがいいんだと 誰かが言ってたのを思い出しつつ私は目の前の桜が舞う通学路を 再び歩き出そうと一歩踏み出した―――




「こーまーちー!おっはよぉぉおおおお!!!!」







 これはそんなどこにでもいる中学生の日常の話。

……たまに少しだけ常識外れなことが起こったりもするけど ――― それが、私の日常で……。










"彼女"が望んでいた。いつも通りの日常だった。 




Fin







    *この物語はフィクションです*
作中に出てくる人物や名称等は架空のものであり、
実在の団体や組織、事象とは一切関係ありません。
また、特定の思想や行動を推奨するものではありません。    




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ここまで読了していただき、ありがとうございました!

星喰(hoshikui)







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